【短歌】やわらかく…(毎日新聞・毎日歌壇2016年8月15日米川千嘉子 選)
- 2016/08/15
- 23:01
夏座敷招かれたかどうか不安 野口る理
【夏座敷の不安】
この野口さんの句って、「夏座敷」の〈広さ〉からくる不安だと思うんです。〈広場恐怖(アゴラフォビア)〉というか。
それは物理的な広さではなくて、心理的な広さだとおもうんです。
たとえば親族一同介することになるとか、そういう会食のときに夏座敷が使われたりしますよね。そうるするとときどき自分の身のおきどころがなくて、ひとがめいめいにおしゃべりしている騒々しいなかでへんなエアスポットにはまりこんでしまうことがある。いや、わたしだけかもしれないけれど、なんだろうこのひとり感は、と思いながら、すごくおおぜいの明るいひかりのなかでひとりでいることがある。
あれはなんでああなるのかわからないけれど、夏座敷ってそういうへんなひとり感があると思うんです。またよくわからないうちに、そんなに親しいわけでもないひとびとがどんどん退席していく。どこかで血のつながっているはずの、しかしそんなに親しいわけではないひとびとがひとりふたりとそんなに親しくなる前にいなくなってしまう。とっておきのエピソードがあったのに。いやないんだけれども、みんな、いなくなる。その「不安」もあるんじゃないかと思うんです。
でもそういうときに、きゅうりやトマトはすごく発色ゆたかにひかっている。広さもあるし、血もあるし、色彩もあるし、暑さもあるし、光もあるし、音もあるし、喪失感もあるし、どうやって終わらせればいいかわからない不安。この文章をどうやって終わらせたらいいかわからない不安。みんな、いなくなる。
やわらかくひとりふたりと消えていき夏の料理はひかりじゃないか 柳本々々
(毎日新聞・毎日歌壇2016年8月15日米川千嘉子 選)
【夏座敷の不安】
この野口さんの句って、「夏座敷」の〈広さ〉からくる不安だと思うんです。〈広場恐怖(アゴラフォビア)〉というか。
それは物理的な広さではなくて、心理的な広さだとおもうんです。
たとえば親族一同介することになるとか、そういう会食のときに夏座敷が使われたりしますよね。そうるするとときどき自分の身のおきどころがなくて、ひとがめいめいにおしゃべりしている騒々しいなかでへんなエアスポットにはまりこんでしまうことがある。いや、わたしだけかもしれないけれど、なんだろうこのひとり感は、と思いながら、すごくおおぜいの明るいひかりのなかでひとりでいることがある。
あれはなんでああなるのかわからないけれど、夏座敷ってそういうへんなひとり感があると思うんです。またよくわからないうちに、そんなに親しいわけでもないひとびとがどんどん退席していく。どこかで血のつながっているはずの、しかしそんなに親しいわけではないひとびとがひとりふたりとそんなに親しくなる前にいなくなってしまう。とっておきのエピソードがあったのに。いやないんだけれども、みんな、いなくなる。その「不安」もあるんじゃないかと思うんです。
でもそういうときに、きゅうりやトマトはすごく発色ゆたかにひかっている。広さもあるし、血もあるし、色彩もあるし、暑さもあるし、光もあるし、音もあるし、喪失感もあるし、どうやって終わらせればいいかわからない不安。この文章をどうやって終わらせたらいいかわからない不安。みんな、いなくなる。
やわらかくひとりふたりと消えていき夏の料理はひかりじゃないか 柳本々々
(毎日新聞・毎日歌壇2016年8月15日米川千嘉子 選)
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