【川柳連作と散文】「密室忌」『旬』207・2016年9月
- 2016/09/22
- 11:14
密室で死体がやっとすこやかに
回せば回すほど膿んでいく万華鏡
こんなにもとぅるとぅるしているの8は
ジュラ紀から叩くコンビニエンスストアの木の扉
親鸞聖人だったのに今はフリル
フランケンシュタイン博士との同棲の日々
初期状態コアラ最終もコアラ
落ちる間際おっかさんまでは言えた
刀をよく振ったらしぼりましょうよ
「アンドロメダは涼しいだろうか」てがみを書いている
柳本々々「密室忌」『旬』207・2016年9月
よくミステリーで鍵のかかった密室のドアに体当たりしてドアをぶち破るシーンがあるが、そんな簡単にぶち破れるのかなと思う。家で全身でぶつかってみたりして試しているのがびくともしない。おーい、と言ってひとり連れてきてふたりでぶつかったが、びくともしない。またおーい、と呼んで、ひとりやってくる。ドアの前にやがてひとびとがひしめいて、いち・にで、みんなでドアにぶつかってゆく。ドアはこわれない。しかしそこにはみんなで育んだなんらかのエネルギーが生まれる。それを愛と呼ぶなら愛と呼んでもいいんでしょう、と八番目にやってきたひとが言う。あなたは? と十二番目にやってきたひとがわたしに言う。いちばんめです。ひとりで最初はドアにぶつかっていました。わたしは答える。十二番目は、ふかく、うなずく。
*
【題「丸かじり」】
丸かじりってなにと訊くハローキティ 柳本々々
丸かじりしているときの母の顔 〃
ほぼすべて「あ」という声に集約す 〃
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時計からしじみが漏れている動詞 川合大祐
椿散る聞きたいことがあったのに とき子
夏の雲そういう意見はありがたい 小池孝一
生きるとか死ぬとかそのあたり笑う 樹萄らき
限界はこのあたりかな菊の花 千春
もう夏の匂いはしない、ただの夏 大川博幸
どう出ても何を言っても落とし穴 竹内美千代
ふつふつとお湯も狂気も沸いてくる 桑沢ひろみ
褒めてやる秋を育てたテーマ曲 丸山健三
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漫画家の橋爪まんぷさんから拙句を画にしていただきました。ありがとうございました。
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