城とあとがき
- 2016/10/31
- 09:13
「あれから、どう変わったの?」「わからない」とフリーダは答えて、Kの手を見た。フリーダの手をとっている。「何も変わっていないのかもしれない。あなたがこんなふうにすぐそばにいて、こんなふうに静かにたずねると、そんなときは何も変わっていない気がする。でも、ほんとうは、そうじゃない」
(カフカ『城』)
*
あるひとと話していたら、とつぜんミヒャエル・ハネケの映画『城』を思い出したんですね。
カフカの『城』を脚色なく、あえて映像的貧しさのなかで撮ったものなんだけれど、そのなかでKが真夜中に部屋をまちがえてある役人の部屋のなかに入ってしまう。その部屋はベッドしかないんです。巨大なベッドに役人が寝ている。Kはねむくてしかたなくてベッドのはしっこにすわってねむりかけるんですが、そのときに役人はこんなことを教えてくれる。
「ほんのちょっとのまなざしで状況はいっぺんするものです」と。
*
失望したからといって、たじろいではなりません。はじめてここにやってくると、障害がまったくこえられない気がします。しかし、気をつけてみてください、事態とほとんど一致しないような機会がときおり生じるものなのです。ほんのひとこと、一度の眼差し、ちょっとした信頼のしるしによって、生涯にわたり、身心をすりへらして努力してきたよりも、ずっと多くのことが実現する、そんな機会が訪れるものです。
(カフカ『城』)
*
カフカの『城』って未完だから、けっきょくこの映画もすぱっとなんにもラストもなく終わるんですが、カフカの『城』のコンセプトを言ってみるなら、〈さいごまでわからない〉、いや〈さいごなんてない〉じゃないかと思うんです。たとえばKは目的の城にどうやったってたどりつかないのは有名ですが、〈終わり〉がないってことはどんな行動やことばや出会いも目的論化されないということです。つまりじぶんで目的なりベクトルなりを決めなければならない。Kがインスタントで、しかし深い愛を決意したように。
やっぱりカフカの『城』のことば。
*
「出ていくなんてできない」と、Kが言った。「ここにとどまるためにやって来た。だからここにいる」
(カフカ『城』)
(カフカ『城』)
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あるひとと話していたら、とつぜんミヒャエル・ハネケの映画『城』を思い出したんですね。
カフカの『城』を脚色なく、あえて映像的貧しさのなかで撮ったものなんだけれど、そのなかでKが真夜中に部屋をまちがえてある役人の部屋のなかに入ってしまう。その部屋はベッドしかないんです。巨大なベッドに役人が寝ている。Kはねむくてしかたなくてベッドのはしっこにすわってねむりかけるんですが、そのときに役人はこんなことを教えてくれる。
「ほんのちょっとのまなざしで状況はいっぺんするものです」と。
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失望したからといって、たじろいではなりません。はじめてここにやってくると、障害がまったくこえられない気がします。しかし、気をつけてみてください、事態とほとんど一致しないような機会がときおり生じるものなのです。ほんのひとこと、一度の眼差し、ちょっとした信頼のしるしによって、生涯にわたり、身心をすりへらして努力してきたよりも、ずっと多くのことが実現する、そんな機会が訪れるものです。
(カフカ『城』)
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カフカの『城』って未完だから、けっきょくこの映画もすぱっとなんにもラストもなく終わるんですが、カフカの『城』のコンセプトを言ってみるなら、〈さいごまでわからない〉、いや〈さいごなんてない〉じゃないかと思うんです。たとえばKは目的の城にどうやったってたどりつかないのは有名ですが、〈終わり〉がないってことはどんな行動やことばや出会いも目的論化されないということです。つまりじぶんで目的なりベクトルなりを決めなければならない。Kがインスタントで、しかし深い愛を決意したように。
やっぱりカフカの『城』のことば。
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「出ていくなんてできない」と、Kが言った。「ここにとどまるためにやって来た。だからここにいる」
(カフカ『城』)
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- テーマ:詩・ことば
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