【あとがき】松尾スズキ『ファンキー!─宇宙は見える所までしかない』のあとがき
- 2014/07/28
- 01:30
せめてなぜ私たちは年柄年中がんばらなければならないのか、その辺の理由を明白にしてほしいのです。書類にして提出してほしいのです。手元においておきたければ、コピーしてファックスしてほしいのです。
がんばれなかったとき、私はやっぱり謝らなければいけないのでしょうか。報告くらいはしなきゃいけないのでしょうか。全員には無理ですからこうしましょう。毎年クリスマスの夜空に打ち上げ花火が上がったら、「ああ松尾は今年がんばれなかったんだな」、そうあきらめてほしいのです。
私は子供の頃からがんばるのが苦手でした。中学高校と登校拒否のような状態に私はなっていくのですが、がんばって学校に行こうとするとお腹を下すのです。それでも自分にはなんか才能があるなと思ってましたから、わりとこう努力ってのは違うなみたいな、努力しなきゃできないようなことはたとえできたとしても「本物」じゃなくて、パッとやってパッとできること、それが神様が人に与えた「その人がやるべきこと」なのではないかと。なんか努力ってズルしてるような。自分ががんばれないのは、がんばる能力が初めから欠けていて、だから無理してがんばるのは神様が与えてくれたもの以上を欲張っているというか。
でもがんばらないのも、結構ツライのです。私が「ある」と信じていた才能はやすやすと人の努力に追い抜かれ、気がつきゃ受験でも会社でも落ちこぼれ。今初めて打ち明けますが、私が会社を辞めたのは、バイトに怒鳴られたからなのです。「おーい。何でみんながんばるんだ。おいてかないでくれー」。よく夢の中で叫びました。
必要以上にがんばってる奴見ると、腹立ちます。「おまえが世界をつらくしてるんだ」。説教してやりたくなります。「おまえがんばりたくてもがんばれない人たちの面倒見れるんか」。無茶も言いたくなります。
さて、そんな私がこういう賞をいただくというのは、いよいよがんばってもどうしようもない時代に、世界が足を踏み入れ始めたことの象徴ではないでしょうか。
松尾スズキ。脱力しきった私の名前。もしかしたら、これは私の夢である「がんばれない奴ら総決起」への前祝いなのかも知れません。
がんばる奴らとがんばれない奴らが、いつか広い地平で出会うその日を、私は無理してまでがんばらないことで祈りたいのです。その日だけ、がんばれない奴ら、一瞬立ち上がろうよ。なんかダルイだろうけどさ。
それはもしかしたら世界が完璧にダメになる日かも知れません。だけどもう、ここまでがんばってダメだったんだから、トントンということで手を打とうじゃないですか。
そんな訳で、賞とかいろいろありがとうございます。これからもがんばりません。
松尾スズキ「第41回岸田國士戯曲賞受賞作家になった私が」『ファンキー!─宇宙は見える所までしかない』
がんばれなかったとき、私はやっぱり謝らなければいけないのでしょうか。報告くらいはしなきゃいけないのでしょうか。全員には無理ですからこうしましょう。毎年クリスマスの夜空に打ち上げ花火が上がったら、「ああ松尾は今年がんばれなかったんだな」、そうあきらめてほしいのです。
私は子供の頃からがんばるのが苦手でした。中学高校と登校拒否のような状態に私はなっていくのですが、がんばって学校に行こうとするとお腹を下すのです。それでも自分にはなんか才能があるなと思ってましたから、わりとこう努力ってのは違うなみたいな、努力しなきゃできないようなことはたとえできたとしても「本物」じゃなくて、パッとやってパッとできること、それが神様が人に与えた「その人がやるべきこと」なのではないかと。なんか努力ってズルしてるような。自分ががんばれないのは、がんばる能力が初めから欠けていて、だから無理してがんばるのは神様が与えてくれたもの以上を欲張っているというか。
でもがんばらないのも、結構ツライのです。私が「ある」と信じていた才能はやすやすと人の努力に追い抜かれ、気がつきゃ受験でも会社でも落ちこぼれ。今初めて打ち明けますが、私が会社を辞めたのは、バイトに怒鳴られたからなのです。「おーい。何でみんながんばるんだ。おいてかないでくれー」。よく夢の中で叫びました。
必要以上にがんばってる奴見ると、腹立ちます。「おまえが世界をつらくしてるんだ」。説教してやりたくなります。「おまえがんばりたくてもがんばれない人たちの面倒見れるんか」。無茶も言いたくなります。
さて、そんな私がこういう賞をいただくというのは、いよいよがんばってもどうしようもない時代に、世界が足を踏み入れ始めたことの象徴ではないでしょうか。
松尾スズキ。脱力しきった私の名前。もしかしたら、これは私の夢である「がんばれない奴ら総決起」への前祝いなのかも知れません。
がんばる奴らとがんばれない奴らが、いつか広い地平で出会うその日を、私は無理してまでがんばらないことで祈りたいのです。その日だけ、がんばれない奴ら、一瞬立ち上がろうよ。なんかダルイだろうけどさ。
それはもしかしたら世界が完璧にダメになる日かも知れません。だけどもう、ここまでがんばってダメだったんだから、トントンということで手を打とうじゃないですか。
そんな訳で、賞とかいろいろありがとうございます。これからもがんばりません。
松尾スズキ「第41回岸田國士戯曲賞受賞作家になった私が」『ファンキー!─宇宙は見える所までしかない』
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