【短歌】ーブしては…(毎日新聞・毎日歌壇2014年7月28日、加藤治郎 選)
- 2014/07/29
- 00:25
ーブしてはまぐろ赤身が回りつつきみのかたわらスルーでまたカ
(毎日新聞・毎日歌壇2014年7月29日、加藤治郎 選)
【(近所にある)メビウスの環のなかで】
回転寿司にいったときの、皿をとるタイミングが、いまだに、よく、わからない。
くる。むこうから、きているのが、わかる。みえる。じきに、くる。そこまで、きている。きている。こころがまえする。てが、態勢に、はいる。くる。きた。いや、どうしよう。なんかほんとにこれ、たべたいのか。どうなんだ。きている。もうきている。もうきていて、いま、すぎようと、している。いっている。いく。カーブする。まがった。たべものなのに、カーブする。すごく、キレのいいカーブする。なんだ、お寿司って。たべものなのに、あんなにカーブを経験するじんせいって、なんだろう。また、まがる。
ねえ、とれないよ、どうしよう、とわたしはとなりのひとにいう。
でも、あなたがじんせいでなんかきちんとひとつでも選択したものあったっけ、ととなりのひとがいう。
きびしいひとだったのである。
わたしは、おののく。わたしも、また、いまカーブしているのだ。どうしよう。ああこんなことしているうちに、また、
くる。もうきている。すぐそこまできている。
なんかきちんと選択したことあったんですか、ちゃんとこたえてくださいよ、ととなりのひとがいう。スルーしないで。
となりのひとは、たまごばかりたべている。なんでそんなに寿司屋にきてたまごばかりたべるんだってわたしはおもう。あなたはさかなの敵だ。しかし、
すぎる。いま、すぎたばかりだ。またとれなかった。
わたしがじんせいで選べたものなんてひとつもなかったんだって、わたしはおもう。
だからとなりのひとのたまごをたべようとする。
だめですよこれは、とつきかえされる。ちゃんと、じぶんでえらんで、とらなきゃ。
きびしいひとだ。わたしは、おののく。たまごさえもたべられないなんて。
まだなにひとつ、たべてない。ぐるぐるぐるぐるしてるのを、ただ、みつめてるだけだ。
また、くる。でも、わたしは、またえらべないんだろう。それだけは、わかる。それだけが、わかる。
回転寿司において、わたし(のこころ)が、ゆっくりわひざからくずれておちていく。ひざが、ぐるぐるしているのが、わかる。ああ、また、マグロがすぎた。たまごも、すぎた。みんな、ぐるぐるしてる。あ、いま、カーブしている。なんてうつくしいカーブなんだろう。ほら、また、きた。そして、また、あんなにうつくしいカ
ーブしてはまぐろ赤身が回りつつきみのかたわらスルーでまたカ 柳本々々
(毎日新聞・毎日歌壇2014年7月29日、加藤治郎 選)
【(近所にある)メビウスの環のなかで】
回転寿司にいったときの、皿をとるタイミングが、いまだに、よく、わからない。
くる。むこうから、きているのが、わかる。みえる。じきに、くる。そこまで、きている。きている。こころがまえする。てが、態勢に、はいる。くる。きた。いや、どうしよう。なんかほんとにこれ、たべたいのか。どうなんだ。きている。もうきている。もうきていて、いま、すぎようと、している。いっている。いく。カーブする。まがった。たべものなのに、カーブする。すごく、キレのいいカーブする。なんだ、お寿司って。たべものなのに、あんなにカーブを経験するじんせいって、なんだろう。また、まがる。
ねえ、とれないよ、どうしよう、とわたしはとなりのひとにいう。
でも、あなたがじんせいでなんかきちんとひとつでも選択したものあったっけ、ととなりのひとがいう。
きびしいひとだったのである。
わたしは、おののく。わたしも、また、いまカーブしているのだ。どうしよう。ああこんなことしているうちに、また、
くる。もうきている。すぐそこまできている。
なんかきちんと選択したことあったんですか、ちゃんとこたえてくださいよ、ととなりのひとがいう。スルーしないで。
となりのひとは、たまごばかりたべている。なんでそんなに寿司屋にきてたまごばかりたべるんだってわたしはおもう。あなたはさかなの敵だ。しかし、
すぎる。いま、すぎたばかりだ。またとれなかった。
わたしがじんせいで選べたものなんてひとつもなかったんだって、わたしはおもう。
だからとなりのひとのたまごをたべようとする。
だめですよこれは、とつきかえされる。ちゃんと、じぶんでえらんで、とらなきゃ。
きびしいひとだ。わたしは、おののく。たまごさえもたべられないなんて。
まだなにひとつ、たべてない。ぐるぐるぐるぐるしてるのを、ただ、みつめてるだけだ。
また、くる。でも、わたしは、またえらべないんだろう。それだけは、わかる。それだけが、わかる。
回転寿司において、わたし(のこころ)が、ゆっくりわひざからくずれておちていく。ひざが、ぐるぐるしているのが、わかる。ああ、また、マグロがすぎた。たまごも、すぎた。みんな、ぐるぐるしてる。あ、いま、カーブしている。なんてうつくしいカーブなんだろう。ほら、また、きた。そして、また、あんなにうつくしいカ
ーブしてはまぐろ赤身が回りつつきみのかたわらスルーでまたカ 柳本々々
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