【詩】「目黒と真実」『現代詩手帖』2018年3月号・広瀬大志 選
- 2018/02/28
- 15:45
目黒のわたしたち、というのはたぶんわたしたちのことだが、わたしたちはふだんのくらしをつづけていた
「ときどきはたいようをうつくしいとおもおうか」とわたしはかのじょにいった。
かのじょはとてもこまった顔をした
おもいだしたようにノートをひらきにっきをつけたりもしたがある日ひからびたみかんをみたときに
わたしはこのままずっと目黒にいるんじゃないかという
きがした
みんな、えらくなっていったのに
しぼんでいく髪やペニス、目黒
「そうおもったのね?」
「おもった」
「おもったかあ」
「おもう、ってへんじゃないか? なんでこんな動詞使えるんだろ。ねえ。へんだよねえ。なんでだろ」
「なんでだろ、ばかりいうんだね」
「いいえ」
わたしは目黒で家族をみつけていた
わたしはときどきあなたをわすれそうになっていた
うれしさといかりが同時にこみあげた
目黒はわたしにいつも
真実を語りかける
「ねえあのときどうして僕らは」「なあに」
「ねえ」
目黒駅から等々力操車所行きのバスに乗って
ふたりでかえる
車掌さんの顔にはびっしり鬚が生えていて
わたしはかのじょの顔をみた
かのじょはよわった顔をした
車内はマクドナルドのにおいでいっぱいだった
だれかがもうかんたんに死をかんじている
おりるとかいだんをあがる
四階まで
柳本々々「目黒と真実」『現代詩手帖』2018年3月号・広瀬大志 選
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