【詩】「壁と音質」『現代詩手帖』2019年1月号、松下育男・須永紀子 共選
- 2018/12/31
- 21:08
うとうとしていたらメールで写真が送られてきて開けてみると、黒いもやのようなものが写っている。なんかこわい。電話して、なにを撮ったの? ときくと、壁とかシーツ、という。なんかこわかった。「いい壁だね」「さぐってたよ」「なにをさぐってたの?」「音質」
なんにも噛み合わなかった。
それからしばらく光の写真、ブレた写真、コップの写真、戸の桟を半分だけわざわざ加工で消してある写真が送られてくる。富士山の前に笑って立っているように本人が雑に画像加工してつくった写真も送られてくる。山と人の縮尺がおかしいのに、わらってる。さぐってるさいちゅう、と文もつけてある。「なんかこわいなあ」とわたしはきをうしなうようにねむってしまうと、
真夜中にひかりを感じて起きてテレビをつけてぼんやりと部屋が暗いままでドラマをみていたら「あなたのことをわたしに理解できないままにしてください」とテレビのなかの役者がいった。わたしは、おうい、と奥のへやの住人を呼んで、ふしぎなことをいっているぞ、と大きな声をだした。
柳本々々「壁と音質」『現代詩手帖』2019年1月号、松下育男・須永紀子 共選
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