【感想】戦争が廊下の奥に立つてゐた 渡辺白泉
- 2014/08/06
- 00:35
戦争が廊下の奥に立つてゐた 渡辺白泉
憲兵の前で滑つて転んぢやつた
【動きすぎてはいけない】
はじめて渡辺白泉のこの有名な「戦争が廊下の奥に立つてゐた」をみたときに凄くびっくりしたんですが、あとでもうひとつの「憲兵」の句をみたときに、渡辺白泉の俳句における〈戦争〉とは意味としてあるよりも、身体として、徹底して〈立つ/立てない〉の身体的挙措としてもしかしたらあったのではないかとおもったのです。
白泉の戦争の句でむしろ大事なのは、〈戦争〉が擬人化されて廊下の奥に立っていることそのことじゃなくて、むしろ〈立つ〉という行為におののき、そのことだけで句が成立すると思っている〈立つ〉ことのドラマから疎外された非ドラマにおけるこの句の語り手なのではないかとおもうのです。つまりこの句において大事なのは、徹底して〈立つ〉ことから疎外されること。立つことを言語化することで積極的に語り手自身がみずからを〈疎外〉してゆくことにあるのではないかと思うのです。
戦争は軍隊という規律訓練の蔓延する〈立つ/立たせる〉力学が〈場〉を支配していますが、しかし〈立つ〉力学のみならず、避け、潜み、構え、仆れ、死ぬことによって〈非ー立つ〉がつねに介入し、侵入してくるのも戦争です。戦争とはある側面からみれば、〈立ったり/立たなかったり/立てなくなったり/立たせなくしたり/立つものが消尽したり〉する〈立つ〉ことをめぐる〈場〉の力学だということもできます。
中七の「廊下の奥に」からは、いまはまだ語り手が廊下の〈非ー奥〉にはいるもののいずれすこし〈歩き〉さえすればみずからも「戦争」と同じ位置に〈立つ〉ことができるという〈立つ〉ことのアクセスの所在が中七というある一定の長さをもったコネクトによって、それこそ渡り「廊下」のように上五と下五をつなげています。〈戦争〉と〈立つこと〉は中七によって語り手の位置関係も巻き込みながら潜在的に〈接続〉していきます。
そのときに、〈切断〉するのが、「憲兵の前ですべつてころんじやつた」の句なのではないかと思うのです。〈立つ〉ことへ接続過剰していく「戦争」において、すべての人間が〈立つ〉ことへと総動員されていくなかで「すべつてころ」んじゃうという切断過剰をひきおこしてみせること。
それが渡辺白泉の句における〈立つ/立たない〉ことをめぐる戦争というドラマを未遂させるためのドラマだったのではないかとおもうのです。
銃後といふ不思議な町を丘で見た 渡辺白泉
憲兵の前で滑つて転んぢやつた
【動きすぎてはいけない】
はじめて渡辺白泉のこの有名な「戦争が廊下の奥に立つてゐた」をみたときに凄くびっくりしたんですが、あとでもうひとつの「憲兵」の句をみたときに、渡辺白泉の俳句における〈戦争〉とは意味としてあるよりも、身体として、徹底して〈立つ/立てない〉の身体的挙措としてもしかしたらあったのではないかとおもったのです。
白泉の戦争の句でむしろ大事なのは、〈戦争〉が擬人化されて廊下の奥に立っていることそのことじゃなくて、むしろ〈立つ〉という行為におののき、そのことだけで句が成立すると思っている〈立つ〉ことのドラマから疎外された非ドラマにおけるこの句の語り手なのではないかとおもうのです。つまりこの句において大事なのは、徹底して〈立つ〉ことから疎外されること。立つことを言語化することで積極的に語り手自身がみずからを〈疎外〉してゆくことにあるのではないかと思うのです。
戦争は軍隊という規律訓練の蔓延する〈立つ/立たせる〉力学が〈場〉を支配していますが、しかし〈立つ〉力学のみならず、避け、潜み、構え、仆れ、死ぬことによって〈非ー立つ〉がつねに介入し、侵入してくるのも戦争です。戦争とはある側面からみれば、〈立ったり/立たなかったり/立てなくなったり/立たせなくしたり/立つものが消尽したり〉する〈立つ〉ことをめぐる〈場〉の力学だということもできます。
中七の「廊下の奥に」からは、いまはまだ語り手が廊下の〈非ー奥〉にはいるもののいずれすこし〈歩き〉さえすればみずからも「戦争」と同じ位置に〈立つ〉ことができるという〈立つ〉ことのアクセスの所在が中七というある一定の長さをもったコネクトによって、それこそ渡り「廊下」のように上五と下五をつなげています。〈戦争〉と〈立つこと〉は中七によって語り手の位置関係も巻き込みながら潜在的に〈接続〉していきます。
そのときに、〈切断〉するのが、「憲兵の前ですべつてころんじやつた」の句なのではないかと思うのです。〈立つ〉ことへ接続過剰していく「戦争」において、すべての人間が〈立つ〉ことへと総動員されていくなかで「すべつてころ」んじゃうという切断過剰をひきおこしてみせること。
それが渡辺白泉の句における〈立つ/立たない〉ことをめぐる戦争というドラマを未遂させるためのドラマだったのではないかとおもうのです。
銃後といふ不思議な町を丘で見た 渡辺白泉
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