【短歌】改札に…(「第77回 短歌ください(お題:電車)」『ダ・ヴィンチ』2014年9月号掲載 穂村弘 選)
- 2014/08/07
- 19:18
改札にオカモトのゴムが落ちていて5W1H誘う 柳本々々
(「第77回 短歌ください(お題:電車)」『ダ・ヴィンチ』2014年9月号掲載 穂村弘 選)
【小林秀雄と/のコンドーム003】
唐突だが小林秀雄は『Xへの手紙』でこんなふうに述べている。
俺は元来哀愁といふものを好かない性質(たち)だ、或は君も知つてゐる通り、好かない事を一種の掟と感じて来た男だ。
これは同じ小林秀雄の『無常といふ事』における「美しい花がある、花の美しさというようなものはない」という有名な一節にも通じているように思う。
つまり、小林秀雄の批評意識の〈批評性〉たるゆえんは〈抒情〉の排除にあったのではないかとおもうのだ。
だからこそ小林にとって秘められた世阿弥の「花」や「自意識の最重要部が音で出来てゐた」公・私の彼岸にいるモーツァルトは、それが〈抒情〉で覆われていないがゆえに語るに値するものになったのではないかと、おもうのだ。
高橋英夫は「抒情を隠蔽し拒否しようとする抒情が小林秀雄の批評の底にある。彼の批評は、つまりはそういう否定によって誘発された危機の産物なのである」と『批評の精神』において述べている。
で、かなり突飛な飛躍になってしまうかもしれないけれど、私は「道に落ちている避妊具=コンドーム」もまたそうした〈抒情化できない抒情〉としてあるのではないかとおもう。つまり、道におちたコンドームの言語化できない〈なにか〉こそ、小林秀雄的批評性なのではないかと。
部屋にあるコンドームならば言語化することはできる。それは、潜在的なセックス、予期されるセックスとしての抒情だ。しかし道に落ちているコンドームはちがう。改札や駅に落ちているコンドームもしかりである。
それは、誰が・どこで・いつ・なぜ・なにを・どうやってするためのものだったのかという5W1Hを喚起しつつも、いつまでもその根源にはたどりつけず、抒情化できない抒情、言語化できない言語としてあるのが道に落ちたコンドームではなかったか。
小林秀雄は『人間の建設』のなかでこんなことを述べている。
ベルグソンは若いころにこういうことを言っています。問題を出すということが一番大事なことだ。うまく出す。問題をうまく出せば即ちそれが答えだと。
もしかしたら、〈答え(られ)ない〉ということのなかに〈答え(られ)る〉はあるのかもしれない。
外国語第一第二学びきて春の陽浴びる 無言/フェラチオ 柳本々々(「時をかけるでもない、少女でもない」『かばん』2014年3月)
(「第77回 短歌ください(お題:電車)」『ダ・ヴィンチ』2014年9月号掲載 穂村弘 選)
【小林秀雄と/のコンドーム003】
唐突だが小林秀雄は『Xへの手紙』でこんなふうに述べている。
俺は元来哀愁といふものを好かない性質(たち)だ、或は君も知つてゐる通り、好かない事を一種の掟と感じて来た男だ。
これは同じ小林秀雄の『無常といふ事』における「美しい花がある、花の美しさというようなものはない」という有名な一節にも通じているように思う。
つまり、小林秀雄の批評意識の〈批評性〉たるゆえんは〈抒情〉の排除にあったのではないかとおもうのだ。
だからこそ小林にとって秘められた世阿弥の「花」や「自意識の最重要部が音で出来てゐた」公・私の彼岸にいるモーツァルトは、それが〈抒情〉で覆われていないがゆえに語るに値するものになったのではないかと、おもうのだ。
高橋英夫は「抒情を隠蔽し拒否しようとする抒情が小林秀雄の批評の底にある。彼の批評は、つまりはそういう否定によって誘発された危機の産物なのである」と『批評の精神』において述べている。
で、かなり突飛な飛躍になってしまうかもしれないけれど、私は「道に落ちている避妊具=コンドーム」もまたそうした〈抒情化できない抒情〉としてあるのではないかとおもう。つまり、道におちたコンドームの言語化できない〈なにか〉こそ、小林秀雄的批評性なのではないかと。
部屋にあるコンドームならば言語化することはできる。それは、潜在的なセックス、予期されるセックスとしての抒情だ。しかし道に落ちているコンドームはちがう。改札や駅に落ちているコンドームもしかりである。
それは、誰が・どこで・いつ・なぜ・なにを・どうやってするためのものだったのかという5W1Hを喚起しつつも、いつまでもその根源にはたどりつけず、抒情化できない抒情、言語化できない言語としてあるのが道に落ちたコンドームではなかったか。
小林秀雄は『人間の建設』のなかでこんなことを述べている。
ベルグソンは若いころにこういうことを言っています。問題を出すということが一番大事なことだ。うまく出す。問題をうまく出せば即ちそれが答えだと。
もしかしたら、〈答え(られ)ない〉ということのなかに〈答え(られ)る〉はあるのかもしれない。
外国語第一第二学びきて春の陽浴びる 無言/フェラチオ 柳本々々(「時をかけるでもない、少女でもない」『かばん』2014年3月)
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