【感想】加藤治郎『歌集 雨の日の回顧展』-意識の句読法-
- 2014/04/21
- 12:50
ふれたなら幼い耳であるようにとれそうなノブ、ふれたのだろう
加藤治郎さんの初期の短歌には、記号を用いたうたがおおくみられることも特徴的なんですが(ちなみにこの第七歌集には少ない)、加藤さんの短歌における読点(、)の役割についてすこしかんがえてみたいんです。
たとえば、うえの歌なんですが、結句の前に読点がおかれることによって、そこでうたがいったんとぎれています。
この読点があることによって「ふれたなら」という初句から続く一連の流れと、「ふれただろう」という結句の語り手の意識の位相が切れています。
さいしょの流れは語り手はノブをみています。だからこれは語り手がみていることそのものをうたっています。ところが「、」で断続したあとにとつぜん語り手は「だろう」と推量します。しかもふしぎなのは「ふれたなら」と条件法で語っていたはずの語り手が「ふれたのだろう」とすでに過去推量のかたちになっているところです。
ここでわたしが思うのは、この語り手の〈稀薄〉なゆれです。「、」に切断された語り手は読点によって意識の位相を変えてしまいます。つまり、この短歌で実践されているのは、近代短歌とは異なる意識の状態を線の流れのようにリニアには展開しない語り手、つまり近代的な意識のモードでは信頼されない語り手のありかただとおもうんです。
もっといえば、この短歌の語り手は「、」の読み換えを実践しているようにすら、おもいます。音読するための呼吸の気息としての「、」が連続する意識をうがち、意識そのものの流れを変えてしまう〈意識の読点〉となっているのです。
願望の芽が約束に自ずから脅迫の葉にうつろう、花だ
うす青いゴム手袋のさきっぽがのびきってめちゃくちゃになれ、俺
これら短歌で実践されている句読法は、音読用に用いられている気息のための呼吸法ではなく、意識を逆撫でするような〈意識の句読法〉だとおもうんです。それによって多重化された意識の位相をよびこむことができます。
加藤さんの短歌のなかで記号が用いられた場合、むしろ記号を用いるというよりは、あらたな文脈にいれこむことによって記号の読み換えを行ってしまう、そしてそのことによって短歌の読みのモード自体も再文脈化すること。それが加藤さんの短歌のひとつのおもしろさとしてあるようにおもいます。
温風が朝の冷気をわけてゆく誤訳だらけの日常だろう
加藤治郎さんの初期の短歌には、記号を用いたうたがおおくみられることも特徴的なんですが(ちなみにこの第七歌集には少ない)、加藤さんの短歌における読点(、)の役割についてすこしかんがえてみたいんです。
たとえば、うえの歌なんですが、結句の前に読点がおかれることによって、そこでうたがいったんとぎれています。
この読点があることによって「ふれたなら」という初句から続く一連の流れと、「ふれただろう」という結句の語り手の意識の位相が切れています。
さいしょの流れは語り手はノブをみています。だからこれは語り手がみていることそのものをうたっています。ところが「、」で断続したあとにとつぜん語り手は「だろう」と推量します。しかもふしぎなのは「ふれたなら」と条件法で語っていたはずの語り手が「ふれたのだろう」とすでに過去推量のかたちになっているところです。
ここでわたしが思うのは、この語り手の〈稀薄〉なゆれです。「、」に切断された語り手は読点によって意識の位相を変えてしまいます。つまり、この短歌で実践されているのは、近代短歌とは異なる意識の状態を線の流れのようにリニアには展開しない語り手、つまり近代的な意識のモードでは信頼されない語り手のありかただとおもうんです。
もっといえば、この短歌の語り手は「、」の読み換えを実践しているようにすら、おもいます。音読するための呼吸の気息としての「、」が連続する意識をうがち、意識そのものの流れを変えてしまう〈意識の読点〉となっているのです。
願望の芽が約束に自ずから脅迫の葉にうつろう、花だ
うす青いゴム手袋のさきっぽがのびきってめちゃくちゃになれ、俺
これら短歌で実践されている句読法は、音読用に用いられている気息のための呼吸法ではなく、意識を逆撫でするような〈意識の句読法〉だとおもうんです。それによって多重化された意識の位相をよびこむことができます。
加藤さんの短歌のなかで記号が用いられた場合、むしろ記号を用いるというよりは、あらたな文脈にいれこむことによって記号の読み換えを行ってしまう、そしてそのことによって短歌の読みのモード自体も再文脈化すること。それが加藤さんの短歌のひとつのおもしろさとしてあるようにおもいます。
温風が朝の冷気をわけてゆく誤訳だらけの日常だろう
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