【感想】「あなったて素ね」「そう わたしラが好きよ」 丸山進
- 2014/08/19
- 05:21
「あなったて素ね」「そう わたしラが好きよ」 丸山進
【「馬肉?」「……」「アリクイ?」「………」】
第18回杉野十佐一賞(お題「素」)で、選者の徳永政二さんが特選にえらんだ句だ。
徳永さんの句評に、「選の途中、『あなたって』の間違いではないかを確認させていただいた。そして、あらためて「ラが好きよ」につなぐ話し言葉であると理解した。「素」からの展開にさわやかな風が吹いた」とある。
わたしがこの丸山さんの句をみたとき、すごくびっくりしてちょっとたじろいだ。ほんとうにびっくりしたので、いろんなひとのところにもっていって、この句ってどういう句だとおもいますか、どういう感じをもちますか、といろいろ話をきいてみたりもした。
ただいまだに、よく、わからない。もちろん、丸山さんはその〈答え〉をもっているかもしれないし、また徳永さんもその〈答え〉をもっているかもしれないし、ほかにもたくさんのひとがこの句の〈答え〉をもっているかもしれないけれど、わたしにとって大事だったのはこれだけの〈わからなさ〉をもたらしたこの句のありようだった。
たいてい、句にはひとつやふたつのノイズがあって、そのノイズが全体の構造に照らし合わせればノイズのままに読み解けるようにはなっている(とおもう)のだが、この句は〈すべてがノイズ〉というかんじで、〈どれもが〉参照できそうでありながら、〈どれもが〉相互にノイズになっている。それがこの句の、すごいところだとおもう。
たとえばカギカッコがついているからこれはだれかの話し言葉なんだな、ということがわかる。ところが話し言葉なのに「あなったて」といってるし、「素ね」「ラが好きよ」とかみあわない意味不明のしかし本人たちは会話ができているそのかんじ。しかも意味ありげでありながら読解をゆるさない不穏な一字アキ。こんなにもすばらしくも〈わかる〉ことを許そうとしない句のありようが、わたしはこの句のすばらしさではないかとおもう。
お題は「素」なのだが、わたしはこの句は読み手を武装解除し、読み手を「素」にもどす力のある句なのではないかとおもう。
つまり、たとえば川柳リアリズムというものがあるならば、川柳にとってひとが変身してしまったり、えたいのしれないものがひきだしや空から落ちてきても、だれもふしぎがらないという現代川柳の川柳リアリズムというものがあるならば、この句はその川柳リアリズムを漂白し〈素〉の状態にもどしてしまうところに凄みがあるようにおもう。
ここにあるのは川柳リアリズムではない。もしかしたらまだ現代川柳が見いだしていなかった意味の地平なのではないかとすら、おもう。そしてそれ以上、いってしまうと、みんなが意味の崖から転落してしまう意味の崖っぷちに立ち尽くしている句でもある。
ときどき、この丸山さんの句に、かえってこようとおもっている。わたしにとって、川柳の彼岸にある川柳の地平は、こんなとこにあるような気がする。
それは「ややこしいので馬肉だと言っておく」しかないし、「アリクイに似ているそれがすべてです」としかいえないようないいあてられない〈意味の地平〉である。
ややこしいので馬肉だと言っておく 丸山進
アリクイに似ているそれがすべてです 〃
【「馬肉?」「……」「アリクイ?」「………」】
第18回杉野十佐一賞(お題「素」)で、選者の徳永政二さんが特選にえらんだ句だ。
徳永さんの句評に、「選の途中、『あなたって』の間違いではないかを確認させていただいた。そして、あらためて「ラが好きよ」につなぐ話し言葉であると理解した。「素」からの展開にさわやかな風が吹いた」とある。
わたしがこの丸山さんの句をみたとき、すごくびっくりしてちょっとたじろいだ。ほんとうにびっくりしたので、いろんなひとのところにもっていって、この句ってどういう句だとおもいますか、どういう感じをもちますか、といろいろ話をきいてみたりもした。
ただいまだに、よく、わからない。もちろん、丸山さんはその〈答え〉をもっているかもしれないし、また徳永さんもその〈答え〉をもっているかもしれないし、ほかにもたくさんのひとがこの句の〈答え〉をもっているかもしれないけれど、わたしにとって大事だったのはこれだけの〈わからなさ〉をもたらしたこの句のありようだった。
たいてい、句にはひとつやふたつのノイズがあって、そのノイズが全体の構造に照らし合わせればノイズのままに読み解けるようにはなっている(とおもう)のだが、この句は〈すべてがノイズ〉というかんじで、〈どれもが〉参照できそうでありながら、〈どれもが〉相互にノイズになっている。それがこの句の、すごいところだとおもう。
たとえばカギカッコがついているからこれはだれかの話し言葉なんだな、ということがわかる。ところが話し言葉なのに「あなったて」といってるし、「素ね」「ラが好きよ」とかみあわない意味不明のしかし本人たちは会話ができているそのかんじ。しかも意味ありげでありながら読解をゆるさない不穏な一字アキ。こんなにもすばらしくも〈わかる〉ことを許そうとしない句のありようが、わたしはこの句のすばらしさではないかとおもう。
お題は「素」なのだが、わたしはこの句は読み手を武装解除し、読み手を「素」にもどす力のある句なのではないかとおもう。
つまり、たとえば川柳リアリズムというものがあるならば、川柳にとってひとが変身してしまったり、えたいのしれないものがひきだしや空から落ちてきても、だれもふしぎがらないという現代川柳の川柳リアリズムというものがあるならば、この句はその川柳リアリズムを漂白し〈素〉の状態にもどしてしまうところに凄みがあるようにおもう。
ここにあるのは川柳リアリズムではない。もしかしたらまだ現代川柳が見いだしていなかった意味の地平なのではないかとすら、おもう。そしてそれ以上、いってしまうと、みんなが意味の崖から転落してしまう意味の崖っぷちに立ち尽くしている句でもある。
ときどき、この丸山さんの句に、かえってこようとおもっている。わたしにとって、川柳の彼岸にある川柳の地平は、こんなとこにあるような気がする。
それは「ややこしいので馬肉だと言っておく」しかないし、「アリクイに似ているそれがすべてです」としかいえないようないいあてられない〈意味の地平〉である。
ややこしいので馬肉だと言っておく 丸山進
アリクイに似ているそれがすべてです 〃
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