【感想】ひらがなの名のひととゆく花野かな 松本てふこ
- 2014/08/31
- 01:12
ひらがなの名のひととゆく花野かな 松本てふこ
【花野、この素晴らしき世界】
花野、ってちょっとふしぎなことが起こる場所なんですよね。
秋の草花が咲く、これから冬がくるようなどこか荒涼とした野原のことを花野というんですが、川上弘美の「花野」という短編のような〈死んだおじさん〉と会い続ける物語のように、なぜか花野ってふしぎな場所が起こる出来事として設定されていたりするようにも思います。
もっといえば、それはどこか不可逆になだれこむ〈終局〉のイメージにも、ちかい。
背負はれてきつと花野に捨てられる 石原ユキオ
と、花野に捨てられることを予期する語り手もいるし、
掃除機を引いて花野に来てしまう 草地豊子
と、掃除機を引いて花野に来てしまった語り手もいます。
花野っていうのが、なにかの境界をこえてしまう場所として設定されていることがこの2句からわかります。花野にきた以上は、花野に〈来た〉ということになってしまうこと、〈来た〉が解消できないような場所。それが、たぶん、花野です。
松本てふこさんの語り手はおそらくはいま花野にむかってる最中です。
そこで語り手はいっしょにゆく相手の〈名前〉にこだわってます。語り手にとっては、「ひらがなの名のひととゆく」ことに意味があった。
この〈ひらがなの名〉っていうのは、いまだなににも変換されていない、境界未満の〈未生〉をどこかであらわしているのではないかとおもうんです。
だから、語り手は、もしかしたら、このひとといっしょにいくことで、なにかが変換し、境界をこえ、不可逆の場所に身をおいてしまうことになるかもしれない。
そんなことも、深読みかもしれないけれど、どこかで予期しているのかもしれないなとおもうんですよね。
花野に〈来た〉ら、〈来た〉以前には、もどれないので。
でも、たぶん、だれかと花野に、秋の野原に《わざわざ》行くということは、どこかで不可逆な主体転換を予期せざるをえないような行為なのではないか。だからこそ、語り手は、不可逆の未然形としての「ひらがなの名」に意識を傾けたのではないか。
そんな気が、するのです。
血を採られながら菜の花畑見る 松本てふこ
「生き返りたいね」
かわいた声で言う。
「生き返って、秩序や無秩序の中で暮らしてみたいもんだ」
地面を見つめながら、叔父は洟をかんだ。
低く飛んでいる赤とんぼが一匹、叔父の体を通り抜けた。
川上弘美「花野」
【花野、この素晴らしき世界】
花野、ってちょっとふしぎなことが起こる場所なんですよね。
秋の草花が咲く、これから冬がくるようなどこか荒涼とした野原のことを花野というんですが、川上弘美の「花野」という短編のような〈死んだおじさん〉と会い続ける物語のように、なぜか花野ってふしぎな場所が起こる出来事として設定されていたりするようにも思います。
もっといえば、それはどこか不可逆になだれこむ〈終局〉のイメージにも、ちかい。
背負はれてきつと花野に捨てられる 石原ユキオ
と、花野に捨てられることを予期する語り手もいるし、
掃除機を引いて花野に来てしまう 草地豊子
と、掃除機を引いて花野に来てしまった語り手もいます。
花野っていうのが、なにかの境界をこえてしまう場所として設定されていることがこの2句からわかります。花野にきた以上は、花野に〈来た〉ということになってしまうこと、〈来た〉が解消できないような場所。それが、たぶん、花野です。
松本てふこさんの語り手はおそらくはいま花野にむかってる最中です。
そこで語り手はいっしょにゆく相手の〈名前〉にこだわってます。語り手にとっては、「ひらがなの名のひととゆく」ことに意味があった。
この〈ひらがなの名〉っていうのは、いまだなににも変換されていない、境界未満の〈未生〉をどこかであらわしているのではないかとおもうんです。
だから、語り手は、もしかしたら、このひとといっしょにいくことで、なにかが変換し、境界をこえ、不可逆の場所に身をおいてしまうことになるかもしれない。
そんなことも、深読みかもしれないけれど、どこかで予期しているのかもしれないなとおもうんですよね。
花野に〈来た〉ら、〈来た〉以前には、もどれないので。
でも、たぶん、だれかと花野に、秋の野原に《わざわざ》行くということは、どこかで不可逆な主体転換を予期せざるをえないような行為なのではないか。だからこそ、語り手は、不可逆の未然形としての「ひらがなの名」に意識を傾けたのではないか。
そんな気が、するのです。
血を採られながら菜の花畑見る 松本てふこ
「生き返りたいね」
かわいた声で言う。
「生き返って、秩序や無秩序の中で暮らしてみたいもんだ」
地面を見つめながら、叔父は洟をかんだ。
低く飛んでいる赤とんぼが一匹、叔父の体を通り抜けた。
川上弘美「花野」
- 関連記事
スポンサーサイト
- テーマ:読書感想文
- ジャンル:小説・文学
- カテゴリ:々々の俳句感想