【短歌】日経新聞・日経歌壇2014年9月7日 穂村弘 選)
- 2014/09/07
- 13:05
わたしは、自分がやばいような気がする、全体的にあいまいもことしている、というかなんだかみえるものすべてが白い、といって、だんだんにこんらんしはじめる。
意識がかすれてゆくんじゃなくて、どうも、あなたがかすれてゆく。
なんというか、ゆびが、とか、髪が、とかじゃない。
あなたの、全的な、統一されたイメージが、そのような形象としてのあなたがどんどんかすれてゆく。
まるでむりやり未来の時間にわたしひとりだけ帰らされるみたいに、とわたしは、あなたにいう。
あなたも心配そうな眼でわたしをみつめている。
いまおもいだしたかもしれないけれど、わたしは、あるとき、ある場所で、未来からきたにんげんだったのかもしれない。ちなみにこれはなに?
おにぎりよ、とあなたがいう。
これはなんてよむの?
おかか。
そうなの。よくみえない。すでに未来への時間軸が侵入してる。わたしは、漂白化されつつある視界のなかで、いう。もうだめかもしれない。ありがとう。いっしょにいることができてすごくたのしかった。身体や記憶や歴史がわすれても、ぼくはわすれない。わたしは、いう。
ちなみにここはどこ?
メガネストア。メガネがたくさんある場所。
あなたがいう。
未来にもメガネはあるのかな、といいながら、わたしは、せせらぎをなす泉にちかづいてゆく。
なぜここに泉が? 過去は、驚きの泉だ。わたしは、メガネをはずして、いう。
浸けてごらんなさい、とあなたがいう。わりとうつくしいこえで。
わたしは、そのしゅんかん、すべてを思い出して、こんなことを口にする。
洗浄をするからきみは横にいていい音がするメガネの泉 柳本々々
(日経新聞・日経歌壇2014年9月7日 穂村弘 選)
意識がかすれてゆくんじゃなくて、どうも、あなたがかすれてゆく。
なんというか、ゆびが、とか、髪が、とかじゃない。
あなたの、全的な、統一されたイメージが、そのような形象としてのあなたがどんどんかすれてゆく。
まるでむりやり未来の時間にわたしひとりだけ帰らされるみたいに、とわたしは、あなたにいう。
あなたも心配そうな眼でわたしをみつめている。
いまおもいだしたかもしれないけれど、わたしは、あるとき、ある場所で、未来からきたにんげんだったのかもしれない。ちなみにこれはなに?
おにぎりよ、とあなたがいう。
これはなんてよむの?
おかか。
そうなの。よくみえない。すでに未来への時間軸が侵入してる。わたしは、漂白化されつつある視界のなかで、いう。もうだめかもしれない。ありがとう。いっしょにいることができてすごくたのしかった。身体や記憶や歴史がわすれても、ぼくはわすれない。わたしは、いう。
ちなみにここはどこ?
メガネストア。メガネがたくさんある場所。
あなたがいう。
未来にもメガネはあるのかな、といいながら、わたしは、せせらぎをなす泉にちかづいてゆく。
なぜここに泉が? 過去は、驚きの泉だ。わたしは、メガネをはずして、いう。
浸けてごらんなさい、とあなたがいう。わりとうつくしいこえで。
わたしは、そのしゅんかん、すべてを思い出して、こんなことを口にする。
洗浄をするからきみは横にいていい音がするメガネの泉 柳本々々
(日経新聞・日経歌壇2014年9月7日 穂村弘 選)
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