【感想】御中虫『句集 関揺れる』-どこから・だれとして・なにを・かたれる/ないのか-
- 2014/04/28
- 19:13
茨城に関といふ人あり揺れる
関揺れる人のかたちを崩さずに
関揺れるさうかそつちが死の淵か
「この季語は動きませんね」関揺れる
御中虫さんの俳句に特徴的なのは、御中虫さんが俳句で連(句群)をつくっていくその過程において、構築しながらも解体していくという解体構築のプロセスを踏んでいくということなのではないかとおもうんです。
つまり、御中虫さんの俳句にあっては、俳句を志向しつつも、俳句でない領域が、俳句によってつづられていくのではないかと。
この『関揺れる』という句集は、御中虫さんが「俳人の関悦史さん・茨城在住」を季語に見立て、「【揺れる関悦史】を想像して」すべて「揺れる関」という造語としての季語だけでつくった125句の句集がこの『関揺れる』です。
大事な点はこの句集が「震災句集」ではなく、「震災俳句」である点です。微妙な差異ですが、この〈微妙〉にこの句集の意思があらわれています。
これらは「震災俳句」ではあるものの、それらはひとつひとつが分かたれて配置されるべきであり、句集という体裁はなすものの、「震災句集」としての統合の意志はもたないとうことです。句集が句集としての統合としての意志はもたないといことは、そこに〈句集〉としての超越論的視点からの語り手が授与するメッセージ性やイデオロギーが浮かび上がらないような形になっているということではないかとおもうのです。ただ、だからといってこの句集が零度の伝達をめざすかというとそうではなくて、「震災俳句」ではあるのだから、おそらく読み手の位置や場所性によってそのひとなりのデコード(解読)によってこの句集とはいえな句集をよんでいくべきなのではないかと。
これはそういう〈句集〉を拒絶する「句集」のようなきがします。
それは〈震災〉に対するひとつの態度のありかたの示唆しているのかなともおもうんですが、〈震災〉に対してどこから・誰として・なにを・どう語ることができるのか/できないのか、をかんがえたときに、そこに超越論的視点はもちこめずに、わたしがいまどのような場所にいてどこからどのように感じ、どのように無力さをかんじ、どのようなことをおもった/おもっているのかという言葉/非言葉の〈てさぐり〉しかできないのではないかということをこの句集はいっているようにもおもうんです。
「今日だけは、揺れないで、関。」「いやだ、揺れる。」
さあどうする?こうしてる間にも関は揺れるんだぜ?
こんな日は揺れたくなるなと関は言った
「揺れたら関なの?」「じゃあ私も関」「じゃあ俺も」
「関揺れる」というただひとつの季語を一冊まるごとをつらぬきとおすことによって、一貫した視座は変えないままに、しかしその「関揺れる」からさまざまにみえてくるパースペクティヴをできるだけさまざまな位相から多種多様な文体/言説の引用を用いて、詠んでみること。そしてその「震災俳句」を〈句集〉として統合できずに、あえて〈失敗〉し、〈挫折〉すること。
それがこの『句集 関揺れる』が提示している3・11以後のひとつの「句集」としての存在様式のようにおもうのです。
この句集で行われているのは、したがって「関揺れる」という季語を一貫し詠みぬきながらも、その季語が定着し、固定化することもなく、「関悦史さん」という〈起源〉さえも離れて、季語としても意味内容が脱臼され、最終的に解体されてしまうという、季語そのものの〈ゆれ〉、俳句形式そのものの〈ゆれ〉としても語られているようにおもいます。
その存在様式は、おそらくベケットの「続けなくちゃいけない、続けられない、続けよう」という矛盾を抱き込みながらもそれでも発話の意志と挫折をもつ『名づけえぬもの』の様式とも通底している意思だとおもうのです。
関はいつも一人で揺れてゐた、いつも。
わからん、どうせ言葉じゃないか、二度と目ざめないんだ、これも言葉じゃないか、言葉しかないんだよ、続けなくちゃいけない、おれの知っていることはそれだけさ、彼らはやめようとしている、わかっているとも、おれを放そうとしている感じだ、こうやって沈黙が来るのさ、ほんのちょっとだけ、たっぷりしばらくのあいだだけ、さもなければそれはおれのものだ、長続きするやつ、長続きしなかったやつ、いまだに続いているやつ、それがおれなんだろう、続けなくちゃいけない、おれには続けられない、続けなくちゃいけない、だから続けよう、言葉を言わなくちゃいけない、言葉があるかぎりは、言わなくちゃいけない、扉をあければおれの物語、だとしたら驚きだな、もし扉が開いたら、そうしたらそれはおれなんだ、沈黙が来るんだ、その場ですぐに、わからん、絶対にわかるはずがあるもんか、沈黙のなかにいてはわからないよ、続けなくちゃいけない、続けよう。
ベケット『名づけえぬもの』
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