【感想】セーターを脱げば眼鏡の引つ掛かる 小野あらた
- 2014/09/20
- 00:10
セーターを脱げば眼鏡の引つ掛かる 小野あらた
古池や蛙飛び込む水の音 松尾芭蕉
【バイクにまたがるハムレット】
あえて冒険的に読んでみると、この小野あらたさんの句は、〈仕組み〉としては、松尾芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」にも近かったりするんじゃないかと思うんです。
「セーターを脱げば眼鏡の引つ掛かる」の句には、ピタゴラスイッチ的なおもしろさがありますが、大事なのは、「セーター」「眼鏡」といったまったくの主体外のマテリアルなものが連係していくところなんじゃないかとおもうんです。
もちろん「脱げば」というふうに、そこには主体的な意志はあるんですが、しかし「引つ掛か」ったのは主体外のマテリアルによってです。
芭蕉の「古池や」の句も、「古池」という空間を設定し、そこに切れ字を付与することで感じ入っている〈間〉を意志する主体はあるんですが、しかしそういった主体の外において、カエルが飛び込み・水の音が鳴る。
ひとつの〈仕組み〉が連動していくときにどちらの句も主体は〈外〉に置かれたままにある。
ただ、小野あらたさんの句がおもしろいのは、「蛙飛び込む水の音」を〈まとう〉ものとして、みずからの視界をジャックするものとして身体的に生きているところなのではないかとおもうんです。
芭蕉の句に起きた仕組みの連係が、「セーター」と「眼鏡」に転移されることによって、その仕組みが連係されたときに、セーターと眼鏡がひっかかりあい、視界はジャックされる。視界がさえぎられたことにより、主体は、聴覚主体になり、「蛙飛び込む水の音」という〈音声〉が特権化された〈古池や〉主体になる。
この句は、(かなり大胆に読むと)そういった芭蕉の〈古池や〉主体をさりげなく日常のなかで〈演じ〉てしまった主体のようにおもうのです。
ときどき思うんですが、わたしたちは、〈古典〉を〈古典〉として生き直す/読み直すんではなくて、思わぬ場所やかたちで・おもいがけなくも生き直す/読み直すことがあるのではないかということです。
たとえば、『源氏物語』がマクドナルドで生き直されたり、『ハムレット』が放課後のなんでもない教室で生きなおされたりする。
〈古典〉は〈古典〉を生きるのではなくて、〈古典〉はむしろ〈古典化されていない時間と形式〉のなかを生きようとするんじゃないかと。
そんなふうに、おもったりもするのです。
栗飯の隙間の影の深さかな 小野あらた
古池や蛙飛び込む水の音 松尾芭蕉
【バイクにまたがるハムレット】
あえて冒険的に読んでみると、この小野あらたさんの句は、〈仕組み〉としては、松尾芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」にも近かったりするんじゃないかと思うんです。
「セーターを脱げば眼鏡の引つ掛かる」の句には、ピタゴラスイッチ的なおもしろさがありますが、大事なのは、「セーター」「眼鏡」といったまったくの主体外のマテリアルなものが連係していくところなんじゃないかとおもうんです。
もちろん「脱げば」というふうに、そこには主体的な意志はあるんですが、しかし「引つ掛か」ったのは主体外のマテリアルによってです。
芭蕉の「古池や」の句も、「古池」という空間を設定し、そこに切れ字を付与することで感じ入っている〈間〉を意志する主体はあるんですが、しかしそういった主体の外において、カエルが飛び込み・水の音が鳴る。
ひとつの〈仕組み〉が連動していくときにどちらの句も主体は〈外〉に置かれたままにある。
ただ、小野あらたさんの句がおもしろいのは、「蛙飛び込む水の音」を〈まとう〉ものとして、みずからの視界をジャックするものとして身体的に生きているところなのではないかとおもうんです。
芭蕉の句に起きた仕組みの連係が、「セーター」と「眼鏡」に転移されることによって、その仕組みが連係されたときに、セーターと眼鏡がひっかかりあい、視界はジャックされる。視界がさえぎられたことにより、主体は、聴覚主体になり、「蛙飛び込む水の音」という〈音声〉が特権化された〈古池や〉主体になる。
この句は、(かなり大胆に読むと)そういった芭蕉の〈古池や〉主体をさりげなく日常のなかで〈演じ〉てしまった主体のようにおもうのです。
ときどき思うんですが、わたしたちは、〈古典〉を〈古典〉として生き直す/読み直すんではなくて、思わぬ場所やかたちで・おもいがけなくも生き直す/読み直すことがあるのではないかということです。
たとえば、『源氏物語』がマクドナルドで生き直されたり、『ハムレット』が放課後のなんでもない教室で生きなおされたりする。
〈古典〉は〈古典〉を生きるのではなくて、〈古典〉はむしろ〈古典化されていない時間と形式〉のなかを生きようとするんじゃないかと。
そんなふうに、おもったりもするのです。
栗飯の隙間の影の深さかな 小野あらた
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