【感想】法橋ひらく「灯台」『短歌研究』2014年9月
- 2014/09/26
- 19:00
衝立(ついたて)のむこう詩的な会話だな社員証に秋の日は跳ねて
空想と空想の間の谷としてイオンモールの前の信号
直喩なら殺されました(越冬のオオハクチョウの羽ばたきを見た)
漁港から漁港へむかう山道の斜面のこんなところにも墓地
届くものだけが光じゃないけれど届かなかった光のことは
法橋ひらく「灯台」『短歌研究』2014*9
【合間を照らす】
法橋ひらくさんの第57回短歌研究新人賞最終選考通過作です。
この連作から特徴のひとつとして、こちらとあちらの〈合間〉に対する鋭敏さというものをあげてみたいと思います。
「衝立」というあちらとこちらを隔てるものによって生まれる空間、「空想と空想の間の谷」としてマテリアルにせきとめてくる「信号」、「漁港から漁港へむかう」合間にあるきづかれなかった「墓地」、届く光と届かなかった光の合間。
そのどちらかを見据えるのではなくて、そのどちらもが成立することによってはじめて生じてくる〈合間〉が生成されることに語り手が歌うべき〈主題〉を見出している。
これが法橋さんの連作のひとつの特徴としていえるのではないか。
たとえば、「直喩なら殺されました」という文言もその見地からみてみるならば、直喩というのは、「林檎のようなほっぺ」というようなストレートなたとえのことです。
しかし、そうしたストレートな連結は、この〈合間〉の主題のなかでは、殺されてしまう。だからこそ「(越冬のオオハクチョウの羽ばたきを見た)」という「越冬」という〈合間〉を越えることによって〈合間〉を生成するものが付け加えられていたのではないか。
「直喩」というのは、AとBをつなげる原理であり、あるものを理解しやすくする反面、「AのようなB」と暴力的に統合してしまうことによって、どちらもがかねそなえていた差異化されている性質を殺してしまいます。
だからこそ、〈連結〉そのものではなく、AとBがあることによって生じたその〈合間=隙間〉のなかで、Aでもあり非AでもありBでもあり非Bでもある〈なにか〉を見いだすこと。
それがこの連作のなかでひとつ歌われていたことだったのではないかと思いました。
その〈合間〉は語り手自身のなかにも「直喩」として統合化されえないような分離された時間差の心情としても出てくるはずです。たとえば、
案の定バスは遅れてきたけれどちょうど良かった 乗りたくなった 法橋ひらく
空想と空想の間の谷としてイオンモールの前の信号
直喩なら殺されました(越冬のオオハクチョウの羽ばたきを見た)
漁港から漁港へむかう山道の斜面のこんなところにも墓地
届くものだけが光じゃないけれど届かなかった光のことは
法橋ひらく「灯台」『短歌研究』2014*9
【合間を照らす】
法橋ひらくさんの第57回短歌研究新人賞最終選考通過作です。
この連作から特徴のひとつとして、こちらとあちらの〈合間〉に対する鋭敏さというものをあげてみたいと思います。
「衝立」というあちらとこちらを隔てるものによって生まれる空間、「空想と空想の間の谷」としてマテリアルにせきとめてくる「信号」、「漁港から漁港へむかう」合間にあるきづかれなかった「墓地」、届く光と届かなかった光の合間。
そのどちらかを見据えるのではなくて、そのどちらもが成立することによってはじめて生じてくる〈合間〉が生成されることに語り手が歌うべき〈主題〉を見出している。
これが法橋さんの連作のひとつの特徴としていえるのではないか。
たとえば、「直喩なら殺されました」という文言もその見地からみてみるならば、直喩というのは、「林檎のようなほっぺ」というようなストレートなたとえのことです。
しかし、そうしたストレートな連結は、この〈合間〉の主題のなかでは、殺されてしまう。だからこそ「(越冬のオオハクチョウの羽ばたきを見た)」という「越冬」という〈合間〉を越えることによって〈合間〉を生成するものが付け加えられていたのではないか。
「直喩」というのは、AとBをつなげる原理であり、あるものを理解しやすくする反面、「AのようなB」と暴力的に統合してしまうことによって、どちらもがかねそなえていた差異化されている性質を殺してしまいます。
だからこそ、〈連結〉そのものではなく、AとBがあることによって生じたその〈合間=隙間〉のなかで、Aでもあり非AでもありBでもあり非Bでもある〈なにか〉を見いだすこと。
それがこの連作のなかでひとつ歌われていたことだったのではないかと思いました。
その〈合間〉は語り手自身のなかにも「直喩」として統合化されえないような分離された時間差の心情としても出てくるはずです。たとえば、
案の定バスは遅れてきたけれどちょうど良かった 乗りたくなった 法橋ひらく
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