【短歌・連作】「きかいじかけのくまんばち」『かばん』2013年10月号
- 2014/09/28
- 10:15
くさはらのきかいじかけのくまんばちきみと暮らして3年になる
吸血鬼最新式の冷蔵庫きみの涙は花でできてる
手付かずの遊園地から笑い声 ああおかえりね うんさようなら
くたくたとまるごしの愛感じてる高速道路を森で作る
みっしりと坂をバッグにつめこんでピクニックからかえらない冬
そういえば未来からきたあの猫にときの花束わたし損ねて
理不尽なメリーゴーラウンドにのり帰り道 斧携えて 花
強力なつまさきからずしんとくる魔法だきみのゆびさきのこと
柳本々々「きかいじかけのくまんばち」『かばん』2013年10月号
*
「前号評」にて、佐藤弓生さん、佐藤元紀さん、温井ねむさんから、評をいただきました。ありがとうございました!
喪服着てあるきだしてる春の道サンドイッチをほおばる生きて 柳本々々
「あるきだしてる」という語法の好ましさは、行動が意志をはみだす感覚ゆえ。「あるいてゆこう」では駄目なのです。結句の倒置は必要でしょうか?(評者自信なし) 佐藤弓生「十二月号所感」『かばん』2014年2月号
にんげんのことばをならべ泣かないでわらいもしない春夏秋冬 柳本々々
違和感の矛先が自分に向かふと、自分の存在を疑つてゆくうちに、現実と衝突しての烈しい自己肯定の希求とその極端な反動としての自己否定に至る場合もある。
(……)
柳本氏の一首は正直にいつてわからないのだが、宙ぶらりんの自分を眺めて描写したやうにおもへる。 佐藤元紀「十二月号評」『かばん』2014年2月号
並びしなきみをかすめたぼくの手でなめらかに咲く満身創痍 柳本々々
ぼくの手によってきみに満身創痍が咲く、つまりぼくの手できみを傷つけるという歌だろうか。傷は想像上のものだろうが、ひびやあかぎれのように小さな裂傷が無数に皮ふを覆いながら咲く様子が目に浮かぶ。それあいま列に並んでいるきみの寛いだ様子や、衣服によって隠された肌の美しさを引き立てる。「かすめる」にはすれすれで過ぎるという意味と、盗む、目を盗んでなにかをするという意味がある。それがダブルミーニングになっていて、きみが気付きもしないようなわずかな接触のあいだにわたしはきみを奪ったということなのだろう。 温井ねむ「十二月号評」『かばん』2014年2月号
*
陽にかわく駅のホームの端にいて地上はどこもかしこも浜辺 佐藤弓生
マグリットの青空の下ふたりとも消えちまふまで愛しあはうぜ 佐藤元紀
軽トラに追い越されるときすっぴんの我のあわき影こき影廻る 温井ねむ
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