【感想】奇蹟的なきみの料理だ。湯気のない。とてもきれいだ。すごくまずいよ。 柳谷あゆみ
- 2014/10/04
- 21:22
奇蹟的なきみの料理だ。湯気のない。とてもきれいだ。すごくまずいよ。 柳谷あゆみ
【奇蹟の晩餐】
この短歌のおもしろいのは、「。(句点)」が入るたびに語り手の感じている+-の位相が電極みたいに変わっていくところなんじゃないかとおもうんです。
ちょっとわかりやすくあらわしてみると、
奇蹟的なきみの料理だ。(+)
湯気のない。 (-)
とてもきれいだ。 (+)
すごくまずいよ。 (-)
こんなふうに、句点が入るたびに語り手の感情の位相が+になったり、-になったりしています。
柳谷さんの短歌は一読してふしぎな印象をあたえる短歌が多いんですが、この短歌に限っていえば、そのふしぎさは、このちぐはぐさにあるとおもいます。感情の凸凹道です。
ここでひとつあえて冒険的な〈読み〉をしてみたいとおもいます。
実はこれ、ふたりいるんじゃないかと。
ひとりは「きみの料理」を食べながらこういっている。
「奇蹟的なきみの料理だ。とてもきれいだ」
もうひとりは「きみの料理」を食べながらこういっている。
「湯気のない。すごくまずいよ」
こうしたまったく相反するふたりの位相が短歌=定型によって語り手によってまとめられているのがこの短歌なのではないかとおもうんです。
もっといえば、ここにはもうひとり料理をたべている三人目の語り手がいます。
語り手は、料理に対するふたりの意見を取り混ぜ、提示しつつ、この料理を食べているさんにんめです。
それはなにを意味しているのか。
語り手にとっては「きみの料理」は、「奇蹟的」でもなかったし、「すごくまずい」ものでもなかった。
そして、《わざわざ》そのどちらかを《あえて》評価し発話し意味づけるようなものでさえも、なかった。
語り手にとってはそのどちらでもいいくらいにこの料理に対して位置どりをとっている。それくらいの料理でしかなかった。でも、語り手が短歌化している以上はそれほどの料理でもあった。つまり、中立です。
この短歌にとっての〈奇蹟〉とはおそらくそうした、+、-、中立のみっつの立ち位置をいちどに短歌として料理し提示したことにあるのではないでしょうか。
わたしたちはそれを〈ちぐはぐさ〉として受け取りますが、その経験したことのない〈ちぐはぐさ〉こそが〈奇蹟〉の啓示であり、「きみの料理」を食したさんにんの〈軌跡〉だったのではないかとおもうのです。
テレスコープ彼方に光る昨日(さくじつ)のきみもわたしの昨日を見ている 柳谷あゆみ
【奇蹟の晩餐】
この短歌のおもしろいのは、「。(句点)」が入るたびに語り手の感じている+-の位相が電極みたいに変わっていくところなんじゃないかとおもうんです。
ちょっとわかりやすくあらわしてみると、
奇蹟的なきみの料理だ。(+)
湯気のない。 (-)
とてもきれいだ。 (+)
すごくまずいよ。 (-)
こんなふうに、句点が入るたびに語り手の感情の位相が+になったり、-になったりしています。
柳谷さんの短歌は一読してふしぎな印象をあたえる短歌が多いんですが、この短歌に限っていえば、そのふしぎさは、このちぐはぐさにあるとおもいます。感情の凸凹道です。
ここでひとつあえて冒険的な〈読み〉をしてみたいとおもいます。
実はこれ、ふたりいるんじゃないかと。
ひとりは「きみの料理」を食べながらこういっている。
「奇蹟的なきみの料理だ。とてもきれいだ」
もうひとりは「きみの料理」を食べながらこういっている。
「湯気のない。すごくまずいよ」
こうしたまったく相反するふたりの位相が短歌=定型によって語り手によってまとめられているのがこの短歌なのではないかとおもうんです。
もっといえば、ここにはもうひとり料理をたべている三人目の語り手がいます。
語り手は、料理に対するふたりの意見を取り混ぜ、提示しつつ、この料理を食べているさんにんめです。
それはなにを意味しているのか。
語り手にとっては「きみの料理」は、「奇蹟的」でもなかったし、「すごくまずい」ものでもなかった。
そして、《わざわざ》そのどちらかを《あえて》評価し発話し意味づけるようなものでさえも、なかった。
語り手にとってはそのどちらでもいいくらいにこの料理に対して位置どりをとっている。それくらいの料理でしかなかった。でも、語り手が短歌化している以上はそれほどの料理でもあった。つまり、中立です。
この短歌にとっての〈奇蹟〉とはおそらくそうした、+、-、中立のみっつの立ち位置をいちどに短歌として料理し提示したことにあるのではないでしょうか。
わたしたちはそれを〈ちぐはぐさ〉として受け取りますが、その経験したことのない〈ちぐはぐさ〉こそが〈奇蹟〉の啓示であり、「きみの料理」を食したさんにんの〈軌跡〉だったのではないかとおもうのです。
テレスコープ彼方に光る昨日(さくじつ)のきみもわたしの昨日を見ている 柳谷あゆみ
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