【短歌】毎日新聞・毎日歌壇2014年10月6日・加藤治郎 選
- 2014/10/06
- 11:53
すべての出来事は正しく起る。 アウレーリウス『自省録』
私はアウレーリウスの『自省録』を預言書として読んでるんですが、たぶんこの本のサブタイトルは「夏休みのへこたれ人生電話相談」なんじゃないかとおもうんです。
ちょっとそんな『自省録』のせかいを覗いてみましょう。
【相談者Aさん:とりとめがなくなってしまうのですがどうしたら】
こないだ、えらくとりとめがなかったんです。じぶんのからだが。
ともだちがわたしをみて、あれ、ゆびさきやつまさきがとりとめがなくなってるよ、っていわれて、え、ってききかえしたんです。
その〈え〉すら、もう、とりとめがなくなってた。
半透明になっちゃってて、あれどうなんのかな、とおもって、くるぶしもなんだかとりとめがない。まずい、とおもって、スクワットやクランチをするんだけど、だんだん透けていく。わたしがやっているそのさいちゅうに猫がからだをとおりぬけていく。
ほんとうにとりとめがなくなってしまったんだな、とおもいました。
どうしたら?
【回答:やめなさい】
あれこれととりとめもなくなるのをやめなさい。 アウレーリウス『自省録』
はい。
【相談者Bさん:〈あれ〉ばかり気になる、〈あれ〉ばかりみてしまう。くつろいでいるときちゃらちゃらしてしまう。どうしたら?】
ときどき、〈あれ〉ばかりみていることがあるんです。もう〈あれ〉しかみてない。〈これ〉のない世界にいるときがあるんです。くつろぎのときも全開でちゃらちゃらしてるんです。だらしないことの極みのせかいで〈あれ〉だけを抱きしめている。
どうしたら?
【回答:あっちこっち、みよう】
あれを見たか。しからばこれも見よ。いらいらするな。自分を単純にせよ。くつろぎの時にもまじめであれ。 アウレーリウス『自省録』
はい。
【相談者Cさん:キュウリが思ったよりも苦かった。どうしたら?】
バーニャカウダってすきなんです。〈ニャ〉のぶぶんがいいでしょう。この世界、いきているなかで、なかなか〈ニャ〉なんて発音する機会がない。それでわたし、バーニャカウダをにゃあにゃあしながら食べていたんですが、きゅうりのスティックをアンチョビソースにつけながら口にいれたしゅんかん、おもったんですよ。これはにがい、と。
【回答:すてるがいい】
「この胡瓜はにがい。」棄てるがいい。 アウレーリウス『自省録』
はい。
【相談者Dさん:積ん読ばかりしちゃう。俺、どうしちゃったんだろう?】
積ん読ばかりしてしまうんです。きづくともう本屋にいっても、インテリアを選んでるかんじなんです。この本はあそこに積み上げるとぴったりいいかんじになるかもしれないな、なんて。買って帰って積んでみたらぴったりだったんです。そんなじぶんが、おそろしいんです。俺は俺がおそろしいんです。積ん読のプロフェッショナルになってしまってるじぶんが。どうしたら?
【回答:もうそれ読む機会ないよ】
これ以上さまよい歩くな。君はもう君の覚書や古代ローマ・ギリシア人の言行録や晩年のために取っておいた書物の抄録などを読む機会はないだろう。だから終局の目的に向かっていそげ。 アウレーリウス『自省録』
わかった。
【相談者Eさん:二度寝してしまう。この相談をしているうちにもうたたねしていた。どうしたら?】
すぐ寝てしまいます。実際いまももう寝そうでやばいです。すごくねむたくて。相談させていただきたいのは、わた
……zzz
【回答:それは私もそう思う】
明けがたに起きにくいときには、つぎの思いを念頭に用意しておくがよい。「人間のつとめを果すために私は起きるのだ。」自分がそのために生まれ、そのためにこの世にきた役目をしに行くのを、まだぶつぶついっているのか。それとも自分という人間は夜具の中にもぐりこんで身を温めているために創られたのか。「だってこのほうが心地よいもの。」では君は心地よい思いをするために生まれたのか。「しかし休息もしなくてはならない。」それは私もそう思う。 アウレーリウス『自省録』
zzz…
【相談者 Y本々々さん:すぐにへこたれてしまう。どうしたら?】
たましいがへこたれている黄昏に読む『自省録』あうれえりうすの 柳本々々
(毎日新聞・毎日歌壇2014年10月6日 加藤治郎 選)
【回答:へこたれるとは!】
君の肉体がこの人生にへこたれないのに、魂のほうが先にへこたれるとは。 アウレーリウス『自省録』
zzz…
【今回のへこたれ人生電話相談、相談員からの総括】
今すぐにも人生を去って行くことのできる者のごとくあらゆることをおこない、話し、考えること。 アウレーリウス『自省録』
私はアウレーリウスの『自省録』を預言書として読んでるんですが、たぶんこの本のサブタイトルは「夏休みのへこたれ人生電話相談」なんじゃないかとおもうんです。
ちょっとそんな『自省録』のせかいを覗いてみましょう。
【相談者Aさん:とりとめがなくなってしまうのですがどうしたら】
こないだ、えらくとりとめがなかったんです。じぶんのからだが。
ともだちがわたしをみて、あれ、ゆびさきやつまさきがとりとめがなくなってるよ、っていわれて、え、ってききかえしたんです。
その〈え〉すら、もう、とりとめがなくなってた。
半透明になっちゃってて、あれどうなんのかな、とおもって、くるぶしもなんだかとりとめがない。まずい、とおもって、スクワットやクランチをするんだけど、だんだん透けていく。わたしがやっているそのさいちゅうに猫がからだをとおりぬけていく。
ほんとうにとりとめがなくなってしまったんだな、とおもいました。
どうしたら?
【回答:やめなさい】
あれこれととりとめもなくなるのをやめなさい。 アウレーリウス『自省録』
はい。
【相談者Bさん:〈あれ〉ばかり気になる、〈あれ〉ばかりみてしまう。くつろいでいるときちゃらちゃらしてしまう。どうしたら?】
ときどき、〈あれ〉ばかりみていることがあるんです。もう〈あれ〉しかみてない。〈これ〉のない世界にいるときがあるんです。くつろぎのときも全開でちゃらちゃらしてるんです。だらしないことの極みのせかいで〈あれ〉だけを抱きしめている。
どうしたら?
【回答:あっちこっち、みよう】
あれを見たか。しからばこれも見よ。いらいらするな。自分を単純にせよ。くつろぎの時にもまじめであれ。 アウレーリウス『自省録』
はい。
【相談者Cさん:キュウリが思ったよりも苦かった。どうしたら?】
バーニャカウダってすきなんです。〈ニャ〉のぶぶんがいいでしょう。この世界、いきているなかで、なかなか〈ニャ〉なんて発音する機会がない。それでわたし、バーニャカウダをにゃあにゃあしながら食べていたんですが、きゅうりのスティックをアンチョビソースにつけながら口にいれたしゅんかん、おもったんですよ。これはにがい、と。
【回答:すてるがいい】
「この胡瓜はにがい。」棄てるがいい。 アウレーリウス『自省録』
はい。
【相談者Dさん:積ん読ばかりしちゃう。俺、どうしちゃったんだろう?】
積ん読ばかりしてしまうんです。きづくともう本屋にいっても、インテリアを選んでるかんじなんです。この本はあそこに積み上げるとぴったりいいかんじになるかもしれないな、なんて。買って帰って積んでみたらぴったりだったんです。そんなじぶんが、おそろしいんです。俺は俺がおそろしいんです。積ん読のプロフェッショナルになってしまってるじぶんが。どうしたら?
【回答:もうそれ読む機会ないよ】
これ以上さまよい歩くな。君はもう君の覚書や古代ローマ・ギリシア人の言行録や晩年のために取っておいた書物の抄録などを読む機会はないだろう。だから終局の目的に向かっていそげ。 アウレーリウス『自省録』
わかった。
【相談者Eさん:二度寝してしまう。この相談をしているうちにもうたたねしていた。どうしたら?】
すぐ寝てしまいます。実際いまももう寝そうでやばいです。すごくねむたくて。相談させていただきたいのは、わた
……zzz
【回答:それは私もそう思う】
明けがたに起きにくいときには、つぎの思いを念頭に用意しておくがよい。「人間のつとめを果すために私は起きるのだ。」自分がそのために生まれ、そのためにこの世にきた役目をしに行くのを、まだぶつぶついっているのか。それとも自分という人間は夜具の中にもぐりこんで身を温めているために創られたのか。「だってこのほうが心地よいもの。」では君は心地よい思いをするために生まれたのか。「しかし休息もしなくてはならない。」それは私もそう思う。 アウレーリウス『自省録』
zzz…
【相談者 Y本々々さん:すぐにへこたれてしまう。どうしたら?】
たましいがへこたれている黄昏に読む『自省録』あうれえりうすの 柳本々々
(毎日新聞・毎日歌壇2014年10月6日 加藤治郎 選)
【回答:へこたれるとは!】
君の肉体がこの人生にへこたれないのに、魂のほうが先にへこたれるとは。 アウレーリウス『自省録』
zzz…
【今回のへこたれ人生電話相談、相談員からの総括】
今すぐにも人生を去って行くことのできる者のごとくあらゆることをおこない、話し、考えること。 アウレーリウス『自省録』
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