【感想】手に受けし精子あたたか冬の夜 北大路翼
- 2014/10/07
- 00:12
手に受けし精子あたたか冬の夜 北大路翼
【ソーシャルネットワークとしての精子】
去年の冬に北大路さんのこの句のことを考えていて、さいきん、松本てふこさんの、
不健全図書を世に出しあたたかし 松本てふこ
を考え直していたときに、もしかしたら、このふたつの句の〈あたたかさ〉を感じている主体はわりと近いんじゃないかなとおもったりしたんです。
なにが、ちかいのか。
どちらも〈移行〉と〈生産〉がポイントです。
精子は、精巣からてのひらへと〈移行〉したんですが、ただ〈移行〉したのではなく、眼に見えないかたちから眼に見えるかたちへとかたちが〈生産〉されているのがポイントです。
〈移行〉され〈生産〉されたからこそ、はじめてここで精液の温度を体感し、「あたたか」という発話の実感がもてる。
松本さんの句の不健全図書も、「世に出し」という出版=流通をともないながらも〈意味〉として、もしくは仕事の対価として〈生産〉されているのがポイントです。
出版することで、実際に印刷した紙のあたたかさや、そこから利潤を得るあたたかさや、また、パッケージングされ読み手に届いていくことで意味が多様に散種されていくあたたかさや世に送り出せたことの喜びによる真珠的あたたかさもあるとおもいます。
こんなふうに、〈あたたかさ〉には、語り手が〈そう〉おもった、というよりは、その語り手を支えている流通のプロセスによって語り手があたたかさを体感できたという〈流通的あたたかさ〉があるのではないかとおもうのです。
そうした精子や不健全図書をめぐる環境と、その環境の一環に関わっている主体があたたかかったのではないか、と。
陰茎が触れて蛙が触れない 北大路翼
下の毛を剃られしづかや聖夜の子 松本てふこ
【ソーシャルネットワークとしての精子】
去年の冬に北大路さんのこの句のことを考えていて、さいきん、松本てふこさんの、
不健全図書を世に出しあたたかし 松本てふこ
を考え直していたときに、もしかしたら、このふたつの句の〈あたたかさ〉を感じている主体はわりと近いんじゃないかなとおもったりしたんです。
なにが、ちかいのか。
どちらも〈移行〉と〈生産〉がポイントです。
精子は、精巣からてのひらへと〈移行〉したんですが、ただ〈移行〉したのではなく、眼に見えないかたちから眼に見えるかたちへとかたちが〈生産〉されているのがポイントです。
〈移行〉され〈生産〉されたからこそ、はじめてここで精液の温度を体感し、「あたたか」という発話の実感がもてる。
松本さんの句の不健全図書も、「世に出し」という出版=流通をともないながらも〈意味〉として、もしくは仕事の対価として〈生産〉されているのがポイントです。
出版することで、実際に印刷した紙のあたたかさや、そこから利潤を得るあたたかさや、また、パッケージングされ読み手に届いていくことで意味が多様に散種されていくあたたかさや世に送り出せたことの喜びによる真珠的あたたかさもあるとおもいます。
こんなふうに、〈あたたかさ〉には、語り手が〈そう〉おもった、というよりは、その語り手を支えている流通のプロセスによって語り手があたたかさを体感できたという〈流通的あたたかさ〉があるのではないかとおもうのです。
そうした精子や不健全図書をめぐる環境と、その環境の一環に関わっている主体があたたかかったのではないか、と。
陰茎が触れて蛙が触れない 北大路翼
下の毛を剃られしづかや聖夜の子 松本てふこ
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