【感想】かなかなかなここが私の最果て 室田洋子
- 2014/10/17
- 00:06
かなかなかなここが私の最果て 室田洋子
【俳句を鳴らす】
『豆の木』(17号・2013春)からの一句です。
室田さんの句は、〈聴覚〉を媒介に〈異界〉へアクセスしていくおもしろさがあるようにおもいます。
〈異界〉というとおおげさかもしれませんが、日常のレベルをひとつ超えるといったようなニュアンスです。
たとえば掲句ですが、〈わたし〉を「私の最果て」に連れていくのは、「かなかなかな」です。
「かなかな」というのはヒグラシゼミのことで秋の季語なんですが、「かなかな」に「かな」という切れ字を付け足すことによって、「かなかな/かな」という「かなかな」と「かな」の分節が消え、「かなかなかな……」という〈聴音〉としても機能しはじめているようにおもいます。
そのような偶然季語と切れ字が同じ〈音素〉であったために、そもそもの意味の分別が消え失せていく〈意味の最果て〉。そのようなところに「私の最果て」があるのではないかとおもうんです。
室田さんには他にも聴覚によって異なるレベルにアクセスしていく句があるのであげてみましょう。
聞き役のだんだん尖るきりぎりす 室田洋子
がさがさとラジオの雑音星月夜 〃
カレンダーはがしておれば鳥渡る 〃
探梅や風の中で聴くリコーダー 〃
たとえば、いちばん上の「聞き役の…」の句は、穴をあける「桐(きり)」と「きりぎりす」が掛かっていると思うんですが、こういう掛けことばの世界も、意味の分節を取り払った音の世界で生きてこそです。
「がさがさとラジオの雑音」や「カレンダーはがしておれば」などのノイズとしての音に語り手が意識を傾けているのも注意したいと思います。
音としても、意味のない音、ノイズ、境界を画定しえない音こそが語るべき事柄になっているからです。
たとえば芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」や子規の「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」をノイズ・アレンジしてみるならばどうなるのかといった〈音〉と〈俳句〉の主題がここにはもしかしたらあるのかなともおもったりします。
たとえばジョン・ケージやスティーヴ・ライヒが芭蕉の「水の音」や子規の「鐘」の音を〈音〉としてあらわすのならばどうなるのかといった〈妄想〉を。
釣瓶落しアーモンドチョコを噛みくだき 室田洋子
【俳句を鳴らす】
『豆の木』(17号・2013春)からの一句です。
室田さんの句は、〈聴覚〉を媒介に〈異界〉へアクセスしていくおもしろさがあるようにおもいます。
〈異界〉というとおおげさかもしれませんが、日常のレベルをひとつ超えるといったようなニュアンスです。
たとえば掲句ですが、〈わたし〉を「私の最果て」に連れていくのは、「かなかなかな」です。
「かなかな」というのはヒグラシゼミのことで秋の季語なんですが、「かなかな」に「かな」という切れ字を付け足すことによって、「かなかな/かな」という「かなかな」と「かな」の分節が消え、「かなかなかな……」という〈聴音〉としても機能しはじめているようにおもいます。
そのような偶然季語と切れ字が同じ〈音素〉であったために、そもそもの意味の分別が消え失せていく〈意味の最果て〉。そのようなところに「私の最果て」があるのではないかとおもうんです。
室田さんには他にも聴覚によって異なるレベルにアクセスしていく句があるのであげてみましょう。
聞き役のだんだん尖るきりぎりす 室田洋子
がさがさとラジオの雑音星月夜 〃
カレンダーはがしておれば鳥渡る 〃
探梅や風の中で聴くリコーダー 〃
たとえば、いちばん上の「聞き役の…」の句は、穴をあける「桐(きり)」と「きりぎりす」が掛かっていると思うんですが、こういう掛けことばの世界も、意味の分節を取り払った音の世界で生きてこそです。
「がさがさとラジオの雑音」や「カレンダーはがしておれば」などのノイズとしての音に語り手が意識を傾けているのも注意したいと思います。
音としても、意味のない音、ノイズ、境界を画定しえない音こそが語るべき事柄になっているからです。
たとえば芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」や子規の「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」をノイズ・アレンジしてみるならばどうなるのかといった〈音〉と〈俳句〉の主題がここにはもしかしたらあるのかなともおもったりします。
たとえばジョン・ケージやスティーヴ・ライヒが芭蕉の「水の音」や子規の「鐘」の音を〈音〉としてあらわすのならばどうなるのかといった〈妄想〉を。
釣瓶落しアーモンドチョコを噛みくだき 室田洋子
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