【感想】目を閉じる風のまんなかはここだ 畑美樹
- 2014/12/21
- 01:30
目を閉じる風のまんなかはここだ 畑美樹
【失われた肉球をもとめて、或いは、肉球アドベンチャー2015】
倉阪鬼一郎さんが、現代川柳というのは、哲学に似ている、と指摘しているんですが、もし哲学が世界の基本原理を総点検しなおす作業であるとしたら、川柳もそうした世界の原理を総ざらいしていく作業に近いのではないかとおもったりもするんです。
この世界の根っこを点検しなおすワーク。
これはいいかえれば、世界のいたるところ、ひとがふだんただたんにみない点や、みてみぬふりをしているところ、みているけれどみえていないところを、親密圏にしていく作業なのではないかとおもうのです。
たとえば、畑さんの掲句。
「目を閉じる」ことによって語り手は「風のまんなか」を「ここ」と規定し、みずからの〈親密圏〉とすることに成功しています。
本来的には風も風のまんなかも、世界のものだったはずです。
この〈わたし〉に与えられているものではない。
でも、哲学も川柳も〈わたし〉の視密圏をよそもの的な場所でさがすいとなみになるはずです。
なぜなら、それは、世界の原理を書き変える作業になるはずだから。
だから、もしかすると、すべての現代川柳は、イマニュエル・カントかもしれない。世界を認識する理性を総点検することによって人間はなにを知り、なにを望むことができるかの限界を探求した、あのカントです。
たとえば『川柳カード7号』からやはりおなじ畑さんの句。
振り向くと星はぷるんと剥けている 畑美樹
夕暮れの角を曲がれば二親等 〃
うしろ手に持っている陽水の声 〃
ふところに周回遅れの土星 〃
注意したいのが、すべて、「振り向くと」「角を曲がれば」「うしろ手に持っている」「ふところに」とすべて語り手のアクションとしての親密圏の引力に引き寄せられてから、世界がその磁場によって書き変えられていくように、親密化していくことです。
こういった世界を親密圏として更新しなおす作業にも現代川柳のひとつの通奏低音があるのではないかとおもったりするのです。
もしくは、たとえばこんなふうに、まとめてみてもいいかもしれません。
現代川柳とは、世界のあちこちに落ちている〈肉球〉をさがすことである、と。
だって、肉球をみつけてしまったら、押したくなってしまうでしょう?
そうしてもしも弾力あるそのふくらみを押してしまったら、なんだかあなたはもう知らず知らずのうちにおそらく世界やら肉球やらとなかよくなってしまうでしょう?
そうしてもう肉球は眼のまえにあるのだから、
肉球を押すとかすかに膨れる月 畑美樹
【失われた肉球をもとめて、或いは、肉球アドベンチャー2015】
倉阪鬼一郎さんが、現代川柳というのは、哲学に似ている、と指摘しているんですが、もし哲学が世界の基本原理を総点検しなおす作業であるとしたら、川柳もそうした世界の原理を総ざらいしていく作業に近いのではないかとおもったりもするんです。
この世界の根っこを点検しなおすワーク。
これはいいかえれば、世界のいたるところ、ひとがふだんただたんにみない点や、みてみぬふりをしているところ、みているけれどみえていないところを、親密圏にしていく作業なのではないかとおもうのです。
たとえば、畑さんの掲句。
「目を閉じる」ことによって語り手は「風のまんなか」を「ここ」と規定し、みずからの〈親密圏〉とすることに成功しています。
本来的には風も風のまんなかも、世界のものだったはずです。
この〈わたし〉に与えられているものではない。
でも、哲学も川柳も〈わたし〉の視密圏をよそもの的な場所でさがすいとなみになるはずです。
なぜなら、それは、世界の原理を書き変える作業になるはずだから。
だから、もしかすると、すべての現代川柳は、イマニュエル・カントかもしれない。世界を認識する理性を総点検することによって人間はなにを知り、なにを望むことができるかの限界を探求した、あのカントです。
たとえば『川柳カード7号』からやはりおなじ畑さんの句。
振り向くと星はぷるんと剥けている 畑美樹
夕暮れの角を曲がれば二親等 〃
うしろ手に持っている陽水の声 〃
ふところに周回遅れの土星 〃
注意したいのが、すべて、「振り向くと」「角を曲がれば」「うしろ手に持っている」「ふところに」とすべて語り手のアクションとしての親密圏の引力に引き寄せられてから、世界がその磁場によって書き変えられていくように、親密化していくことです。
こういった世界を親密圏として更新しなおす作業にも現代川柳のひとつの通奏低音があるのではないかとおもったりするのです。
もしくは、たとえばこんなふうに、まとめてみてもいいかもしれません。
現代川柳とは、世界のあちこちに落ちている〈肉球〉をさがすことである、と。
だって、肉球をみつけてしまったら、押したくなってしまうでしょう?
そうしてもしも弾力あるそのふくらみを押してしまったら、なんだかあなたはもう知らず知らずのうちにおそらく世界やら肉球やらとなかよくなってしまうでしょう?
そうしてもう肉球は眼のまえにあるのだから、
肉球を押すとかすかに膨れる月 畑美樹
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