【短歌】「肉球を…(毎日新聞・毎日歌壇2015年2月23日・加藤治郎 選)
- 2015/02/23
- 05:22
「肉球を押して」と書いてある個室さるばどおるだり、ときどき響く 柳本々々
(毎日新聞・毎日歌壇2015年2月23日・加藤治郎 選)
【だんりょくのある、押す、わけです、押す】
たぶん、なんていうか、なんでもそうなんですが、
押すか・押さないか、といわれたら、
わたしはとりあえず、押すタイプのにんげんだと
おもうんです。
よくわからないけれど個室につれていかれて、
真っ白ななにもない個室に、ボタンがひとつだけ
何の説明もなくおいてあったら、
とりあえず、
押す
とおもうんです。
そうして、すこしかんがえて、
また、
押す
とおもうんです。
それから、なにか大事なことを思い出したように
ふいに、ふっと、
押す
とおもうんです。
いっかい誕生日プレゼントに
絶対押さないでねという手紙とともに
押すためのボタンをもらったことがあって、
で、押すか・押さないか、とても熟考(ponder)したあとで、
押し た
わけです。
そのとき、なにかが起こるのかなって
おもったんですが、
なにも起こらなかったわけです。
でも、わたしのなかでわたしがざわついたわけです。
やっぱりこのひと押したね押したよね押すとおもったよね押すひとの顔だね占いなんかでは押すが運をもたらす行為だなんていわれちゃうひとだろうねあんまり押しかたはうまくなかったねでも押しにまけて押したりもするだろうねときどき押したつもりで押してないこともぎゃくにあるかもしれないねなんにも世界のことわからないでとりあえず押すだろうねそういうひとたまにいるものねほらまた押した
そんなふうにわたしのなかがわたしにざわざわしていた。さるばどおる・だり、していた。だりっていた。
そうしてそのあとにそのことをプレゼントしてくれたひとに話したら、それが誕生日プレゼントってことだよ、っていわれたわけです。
よくわからないわけです。
いま、でも。
わけです。
それに……俺、あんなに力強くボタン押したの久しぶりだな……凄く弾力のあるボタンだった。 倉持裕『ワンマン・ショー』
(毎日新聞・毎日歌壇2015年2月23日・加藤治郎 選)
【だんりょくのある、押す、わけです、押す】
たぶん、なんていうか、なんでもそうなんですが、
押すか・押さないか、といわれたら、
わたしはとりあえず、押すタイプのにんげんだと
おもうんです。
よくわからないけれど個室につれていかれて、
真っ白ななにもない個室に、ボタンがひとつだけ
何の説明もなくおいてあったら、
とりあえず、
押す
とおもうんです。
そうして、すこしかんがえて、
また、
押す
とおもうんです。
それから、なにか大事なことを思い出したように
ふいに、ふっと、
押す
とおもうんです。
いっかい誕生日プレゼントに
絶対押さないでねという手紙とともに
押すためのボタンをもらったことがあって、
で、押すか・押さないか、とても熟考(ponder)したあとで、
押し た
わけです。
そのとき、なにかが起こるのかなって
おもったんですが、
なにも起こらなかったわけです。
でも、わたしのなかでわたしがざわついたわけです。
やっぱりこのひと押したね押したよね押すとおもったよね押すひとの顔だね占いなんかでは押すが運をもたらす行為だなんていわれちゃうひとだろうねあんまり押しかたはうまくなかったねでも押しにまけて押したりもするだろうねときどき押したつもりで押してないこともぎゃくにあるかもしれないねなんにも世界のことわからないでとりあえず押すだろうねそういうひとたまにいるものねほらまた押した
そんなふうにわたしのなかがわたしにざわざわしていた。さるばどおる・だり、していた。だりっていた。
そうしてそのあとにそのことをプレゼントしてくれたひとに話したら、それが誕生日プレゼントってことだよ、っていわれたわけです。
よくわからないわけです。
いま、でも。
わけです。
それに……俺、あんなに力強くボタン押したの久しぶりだな……凄く弾力のあるボタンだった。 倉持裕『ワンマン・ショー』
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