【感想】短歌における残酷で素晴らしい〈ゆく〉について。
- 2015/03/02
- 05:28
不確かな速度で伸びゆくカイワレの森に一本指沈めおり 今野浮儚
型押しの桜模様のバッグ持つ右手から始まつてゆく春 風花雫
【ゆ こ う 。】
きょうの毎日歌壇、米川千嘉子さん選からの二首です。
どちらの短歌にも「ゆく」が入っています。
この「ゆく」っていうのが、けっこう短歌には大事な速度と時間をもたらすんじゃないかとおもっているんです。
「ゆく」とは、なにかがなにかに向かうプロセスです。
だからそこには時間の幅がある。
でも、短歌には形式として時間がありません。時間としては〈短い歌〉が短歌だからです。
ところが実は短歌は手続きとしては〈短い〉わけでもない。むしろ、〈長い〉です。
なぜなら、ひとが短歌を読むとき、5、7、5、7、7のひとつひとつを即座に拾い上げ、組み立て、それを時間と速度のある意味形式として仕立て直さないといけないからです。
これは〈短い〉からこそしなければならない手続きであり、だからこそ手続き上〈長い〉んです。
短歌を読むひとは、その〈長さ〉としての、5、7、5、7、7のプロセスをいつも〈ゆく〉ことになります。
はじめの5から終わりの7へと〈ゆく〉過程です。
だから、短歌を読むひとは〈ゆく〉ということについていつも体感的に学んでるんじゃないかとおもうんです。
なんでも一首読むたびに、〈ゆく〉ことを学んでるんじゃないかと。
だから短歌にとって〈ゆく〉っていうのはある意味、特権的なんじゃないかとおもうんです。
「不確かな速度で伸びゆくカイワレの森」や「右手から始まつてゆく春」といわれたときに、カイワレは読み手に関係なく、「伸びゆく」のだし、「春」は「右手から始まつて」しまう。「ゆく」といわれたとき短歌における時間は形式上そのように「ゆく」ものとして動く。
小説のように、ゆきつもどりつして参照や比較しあえる他の時間はないんです。ここにはひとつの、ひとつしかない、可否もない、たったこれ限りの〈ゆく〉時間があるわけです。
だからこそ、この短歌のなかの伸びゆく「カイワレの森」や右手から始まってる「春」は、ここだけにしかない神秘的な時間と速度をもっています。短歌という形式にしかあらわしえなかったような。
だから、この二首の〈ゆく〉の魔術性を次の短歌の〈ゆく〉のマジカルな系譜として置いてみるのもおもしろいかもしれません。
〈ゆく〉とは〈ゆく〉ことであり、〈ゆく〉しかないんです。
でも、それがたぶん、短歌の残酷で、しかしパワフルな速度と時間になる。だから穂村弘的〈ゆく〉なら、
未来に帰りたくないと泣く少年の頭がみるみる禿げてゆく夜 穂村弘
型押しの桜模様のバッグ持つ右手から始まつてゆく春 風花雫
【ゆ こ う 。】
きょうの毎日歌壇、米川千嘉子さん選からの二首です。
どちらの短歌にも「ゆく」が入っています。
この「ゆく」っていうのが、けっこう短歌には大事な速度と時間をもたらすんじゃないかとおもっているんです。
「ゆく」とは、なにかがなにかに向かうプロセスです。
だからそこには時間の幅がある。
でも、短歌には形式として時間がありません。時間としては〈短い歌〉が短歌だからです。
ところが実は短歌は手続きとしては〈短い〉わけでもない。むしろ、〈長い〉です。
なぜなら、ひとが短歌を読むとき、5、7、5、7、7のひとつひとつを即座に拾い上げ、組み立て、それを時間と速度のある意味形式として仕立て直さないといけないからです。
これは〈短い〉からこそしなければならない手続きであり、だからこそ手続き上〈長い〉んです。
短歌を読むひとは、その〈長さ〉としての、5、7、5、7、7のプロセスをいつも〈ゆく〉ことになります。
はじめの5から終わりの7へと〈ゆく〉過程です。
だから、短歌を読むひとは〈ゆく〉ということについていつも体感的に学んでるんじゃないかとおもうんです。
なんでも一首読むたびに、〈ゆく〉ことを学んでるんじゃないかと。
だから短歌にとって〈ゆく〉っていうのはある意味、特権的なんじゃないかとおもうんです。
「不確かな速度で伸びゆくカイワレの森」や「右手から始まつてゆく春」といわれたときに、カイワレは読み手に関係なく、「伸びゆく」のだし、「春」は「右手から始まつて」しまう。「ゆく」といわれたとき短歌における時間は形式上そのように「ゆく」ものとして動く。
小説のように、ゆきつもどりつして参照や比較しあえる他の時間はないんです。ここにはひとつの、ひとつしかない、可否もない、たったこれ限りの〈ゆく〉時間があるわけです。
だからこそ、この短歌のなかの伸びゆく「カイワレの森」や右手から始まってる「春」は、ここだけにしかない神秘的な時間と速度をもっています。短歌という形式にしかあらわしえなかったような。
だから、この二首の〈ゆく〉の魔術性を次の短歌の〈ゆく〉のマジカルな系譜として置いてみるのもおもしろいかもしれません。
〈ゆく〉とは〈ゆく〉ことであり、〈ゆく〉しかないんです。
でも、それがたぶん、短歌の残酷で、しかしパワフルな速度と時間になる。だから穂村弘的〈ゆく〉なら、
未来に帰りたくないと泣く少年の頭がみるみる禿げてゆく夜 穂村弘
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