【短歌】猫バスで…(「第84回 短歌ください(お題:猫)穂村弘 選」『ダ・ヴィンチ』2015年4月号)
- 2015/03/06
- 17:31
猫バスってどうやって降りたらいいのかわからなくて、ずっとかんがえていて。
こないだも猫バスに乗ったんですけど、もう降りたいっていうことが恥ずかしくて、なかなかいいだせなくて。
降りますボタンをさがしたんですけど、猫バスだからないよ、みたいなことを後ろに乗ってたひとからいわれて、てきとうに押したら、いやなだんりょくがあったんで、押しちゃいけないんだな、とおもって。
なかにはとてもおなかがいたそうにずっとおなかをおさえてうずくまっているひともいて、で、だいじょうぶですか、って声をかけたら、そのひとが、ええだいじょうぶですありがとう、って顔をあげてわたしの顔をみたんですけど、わたしの曾祖父だったっていう。
それでまたあっちにもおなかをおさえてうずくまっているひとがいて、でもたぶんそのひとはあのひとだなっていうことがなんとなくわかったからもう声はかけないでおこうっていう。
そうしたら、これでも食べなよ、って女の子からチョコレートをてのひらいっぱいもらったから、ありがとうっていって女の子の顔をみたら、曾祖母だったっていう。
やだなかつて別れた身内とかかつて別れたひととかしかこの猫バスって乗ってないのかなとおもって行き先をみたら、しんじゅく、と書いてあって意外にふつうだったっていう。
でも、しんじゅくのあとに、じゃない、ともつづけて書いてあったので、ああ、しんじゅくじゃないんだな、ゆきさきは、ともおもったっていう。
このまま乗り続けるとわたしもまだ逢いたいひとたちとさよならしなくちゃならなくなるから、どうにかしなきゃとおもって、ぴすとるとかないかなとおもって、かばんをまさぐったら、やわらかいふやふやのぴすとるとまたたびがでてきたから、ぴすとるをとりあえず撃ったあとで、だんがんがへろへろにでてゆくのを確認したあとで、またたびをまいたら、凄い鳴き声がして、高速に入っていったので、ああまちがっちゃった、っていう。
だから、いまは、高速に、いる。
*
猫バスで降りる方法がわからずにまたたびをまく 高速に入る 柳本々々
(「第84回 短歌ください(お題:猫)穂村弘 選」『ダ・ヴィンチ』2015年4月号)
こないだも猫バスに乗ったんですけど、もう降りたいっていうことが恥ずかしくて、なかなかいいだせなくて。
降りますボタンをさがしたんですけど、猫バスだからないよ、みたいなことを後ろに乗ってたひとからいわれて、てきとうに押したら、いやなだんりょくがあったんで、押しちゃいけないんだな、とおもって。
なかにはとてもおなかがいたそうにずっとおなかをおさえてうずくまっているひともいて、で、だいじょうぶですか、って声をかけたら、そのひとが、ええだいじょうぶですありがとう、って顔をあげてわたしの顔をみたんですけど、わたしの曾祖父だったっていう。
それでまたあっちにもおなかをおさえてうずくまっているひとがいて、でもたぶんそのひとはあのひとだなっていうことがなんとなくわかったからもう声はかけないでおこうっていう。
そうしたら、これでも食べなよ、って女の子からチョコレートをてのひらいっぱいもらったから、ありがとうっていって女の子の顔をみたら、曾祖母だったっていう。
やだなかつて別れた身内とかかつて別れたひととかしかこの猫バスって乗ってないのかなとおもって行き先をみたら、しんじゅく、と書いてあって意外にふつうだったっていう。
でも、しんじゅくのあとに、じゃない、ともつづけて書いてあったので、ああ、しんじゅくじゃないんだな、ゆきさきは、ともおもったっていう。
このまま乗り続けるとわたしもまだ逢いたいひとたちとさよならしなくちゃならなくなるから、どうにかしなきゃとおもって、ぴすとるとかないかなとおもって、かばんをまさぐったら、やわらかいふやふやのぴすとるとまたたびがでてきたから、ぴすとるをとりあえず撃ったあとで、だんがんがへろへろにでてゆくのを確認したあとで、またたびをまいたら、凄い鳴き声がして、高速に入っていったので、ああまちがっちゃった、っていう。
だから、いまは、高速に、いる。
*
猫バスで降りる方法がわからずにまたたびをまく 高速に入る 柳本々々
(「第84回 短歌ください(お題:猫)穂村弘 選」『ダ・ヴィンチ』2015年4月号)
- 関連記事
スポンサーサイト