【感想】真夜中のトイレのドアがトイレへと通じていますようにとあける 吉岡太朗
- 2015/03/14
- 00:57
真夜中のトイレのドアがトイレへと通じていますようにとあける 吉岡太朗
*
M 吉岡太朗さんの『歌集 ひだりききの機械』からの一首です。あの、わたし、吉岡さんの短歌を読んでてよくおもうんですけど、〈穴〉への気遣いがけっこう多いなと。
Y 穴っていうと、ホールですか?
M そうですね、なにかこうどこかに吸い込む穴ですよね。ただあいてるわけじゃないんですよ。どこかにつながっている。こわい穴、ですね。
Y いやだなあ。もう帰りたくなってきた。
M たとえば吉岡さんにこんな歌もあります。「海をぜんぶ吸い込むための掃除機に今朝シロナガスクジラがつまる」。つまるってことはですね、どこかに通じていたということです。これ、ちょっと、トイレの歌にちかいですよね。あとこの穴って伸縮無限大です。なんていうのかな、身体の穴っていうよりもね、ええと、……
Y 世界の穴?
M あ、そうですそうです。世界の穴なんですよ。トイレもね、掃除機もね、世界の穴なんですね。で、この穴ってなにかっていうとね、もうこれはね、ええと、……
Y 文化人類学的な穴?
M あ、そうなんですよ。これってもう文化人類学だとおもうんですよ。つまりですね、個人的・身体的・個別的穴が普遍的な世界の穴になっている。たとえば、文化人類学的ってどういうことかというと、日常的儀式が、世界を更新するための儀式につうじているということです。日常の事物で儀式をするんだけど、それが世界の儀式になっているということですね。たとえばこんな歌「風呂場から洗面所へとうつるとき世界はいちど死んで生まれる」
Y じゃあこの穴にわたしは入ってはいけない?
M そうですね、あなたがこの穴にダイヴしたら、それはやばいことになるとおもいますよ。
Y まんじゅうはこわくないけど、穴はこわい!
M (Yをなだめつつ)だいじょぶです。でもこんな歌も注目してもいいかもしれない。「ローソンを出るとガストでガストから出ようとするローソンである」。
Y ローソンこわい! ガストも! ふだん使ってるから! まんじゅう以上に!
M そうですね。これもですね、世界の穴だからどこでも通じちゃってるんですね。いわば、記号の体系みたいなものなんです。穴は記号的なかたちであらわれていますから、現実原則ではない。それはどこかに通じる穴なんです。
Y もう穴に入れない!
M 穴はそんなにそこらへんにないからだいじょうぶなんですけども。ところで〈ひだりきき〉っていうのもね、言語操作のできない身体の穴だとおもうんですよ。ひだりききで書くと書きづらいですよね。ちがったところに思いがけなく通じてしまう。
Y ちょっ、ちょっとまって。いまやってみます。
な、なにこれ! じぶんじゃない! こわい! 帰れない!
M ひだりききって、個人にとっては、〈穴〉なんですよ。そういえば、目も穴ですよね。そして目が〈通〉じるとどうなるかというと、ちょっとYさん、吉岡さんの歌集からさいごにこの歌を声にだして読んでもらえますか。
Y 「通学はいつもひかりのなかにある目はひかりしかみたことがない」
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M 吉岡太朗さんの『歌集 ひだりききの機械』からの一首です。あの、わたし、吉岡さんの短歌を読んでてよくおもうんですけど、〈穴〉への気遣いがけっこう多いなと。
Y 穴っていうと、ホールですか?
M そうですね、なにかこうどこかに吸い込む穴ですよね。ただあいてるわけじゃないんですよ。どこかにつながっている。こわい穴、ですね。
Y いやだなあ。もう帰りたくなってきた。
M たとえば吉岡さんにこんな歌もあります。「海をぜんぶ吸い込むための掃除機に今朝シロナガスクジラがつまる」。つまるってことはですね、どこかに通じていたということです。これ、ちょっと、トイレの歌にちかいですよね。あとこの穴って伸縮無限大です。なんていうのかな、身体の穴っていうよりもね、ええと、……
Y 世界の穴?
M あ、そうですそうです。世界の穴なんですよ。トイレもね、掃除機もね、世界の穴なんですね。で、この穴ってなにかっていうとね、もうこれはね、ええと、……
Y 文化人類学的な穴?
M あ、そうなんですよ。これってもう文化人類学だとおもうんですよ。つまりですね、個人的・身体的・個別的穴が普遍的な世界の穴になっている。たとえば、文化人類学的ってどういうことかというと、日常的儀式が、世界を更新するための儀式につうじているということです。日常の事物で儀式をするんだけど、それが世界の儀式になっているということですね。たとえばこんな歌「風呂場から洗面所へとうつるとき世界はいちど死んで生まれる」
Y じゃあこの穴にわたしは入ってはいけない?
M そうですね、あなたがこの穴にダイヴしたら、それはやばいことになるとおもいますよ。
Y まんじゅうはこわくないけど、穴はこわい!
M (Yをなだめつつ)だいじょぶです。でもこんな歌も注目してもいいかもしれない。「ローソンを出るとガストでガストから出ようとするローソンである」。
Y ローソンこわい! ガストも! ふだん使ってるから! まんじゅう以上に!
M そうですね。これもですね、世界の穴だからどこでも通じちゃってるんですね。いわば、記号の体系みたいなものなんです。穴は記号的なかたちであらわれていますから、現実原則ではない。それはどこかに通じる穴なんです。
Y もう穴に入れない!
M 穴はそんなにそこらへんにないからだいじょうぶなんですけども。ところで〈ひだりきき〉っていうのもね、言語操作のできない身体の穴だとおもうんですよ。ひだりききで書くと書きづらいですよね。ちがったところに思いがけなく通じてしまう。
Y ちょっ、ちょっとまって。いまやってみます。
な、なにこれ! じぶんじゃない! こわい! 帰れない!
M ひだりききって、個人にとっては、〈穴〉なんですよ。そういえば、目も穴ですよね。そして目が〈通〉じるとどうなるかというと、ちょっとYさん、吉岡さんの歌集からさいごにこの歌を声にだして読んでもらえますか。
Y 「通学はいつもひかりのなかにある目はひかりしかみたことがない」
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