【感想】日溜りに置けばたちまち音立てて花咲くような手紙がほしい 天野慶
- 2015/03/20
- 22:40
日溜りに置けばたちまち音立てて花咲くような手紙がほしい 天野慶
*
Y (……きこえますか…きこえますか…Mさん…… 今… あなたの…心に…直接… 呼びかけています…)
M ?
Y ……
M 天野さんの一首ですね。
Y 天野慶さんの『ウタノタネ』をむかし少しずつ毎日読んでいたことがあって、そのときすごく勉強になったのが、各ページ余白に一首ずつある天野さんの好きな短歌です。どの短歌もすてきで、毎日書写してました。
M たしかあれは天野さん自身がもともとご自身の好きな歌を書写して集めたものですよね。
Y それこそまだ歌の世界をぜんぜん知らないわたしにとって『ウタノタネ』は道しるべになるような本でした。
M うえの歌はどうでしょうか?
Y ええ、とても好きな歌です。手紙ってふつう読むもんじゃないですか。わたしたちが読み、関与することによって手紙って手紙性を帯びるとおもうんですが、天野さんのこの歌では手紙の自律性への願いがありますよね。わたしが関与しなくても、手紙独自の自律性で、手紙がたちあがる。そしてそのことによって手紙は手紙でないべつのものに変わる。
M そうなんですよね。語り手が願っているのは「手紙がほしい」ってことなんですけど、一般的に流通するような手紙ではない。だれかがだれかに届けるような手紙でもない。それは手紙が独自の自律性でひとりで花ひらくような手紙なんですよね。
Y いまお話していておもったんですが、これって一見すごくあたたかくて、ほんわかしていて、いい歌じゃないですか。でもいま話していておもったんですが、実はこれってめちゃくちゃ孤独の歌だったりしませんか。だって、手紙の交通性を奪いとって、手紙は花になることで手紙性そのものを奪われてしまうんですよ。
M あのー、わたし、ときどき思うんですが、いい歌や句って、希望の側面と絶望の側面を両方かねそなえているのではないかとおもうんですよね。そのどちらの価値をも含みあわせることによって読み手にそのつど立ち位置を〈決め〉させる。それが短詩のひとつの〈声(ヴォイス)〉なんじゃないかとおもったりもするんですよね。
Y だからほんとに短詩ってそれ自体、〈タネ〉なんですよね。読み手の照らすひかりによってどのような花としても咲かすことができる。
M (そうですそうです……だいじょうぶです……さっきの聞こえていましたよ…)
Y (やだな……恥ずかしいな……このMってひと、なんかあんまり合わない気もするな、このMってひとなんかやだな)
M (ええと…こころの声……いちお、ぜんぶ聞こえてくるんですよね)
Yはふと眼をつぶった。ひだまりがあって、手紙が置いてある。タチ・マチと音をたてて、手紙から花が咲きほこる。Yはおもう。ここには希望も絶望もあると。
M (ちっ、現実逃避か……)
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Y (……きこえますか…きこえますか…Mさん…… 今… あなたの…心に…直接… 呼びかけています…)
M ?
Y ……
M 天野さんの一首ですね。
Y 天野慶さんの『ウタノタネ』をむかし少しずつ毎日読んでいたことがあって、そのときすごく勉強になったのが、各ページ余白に一首ずつある天野さんの好きな短歌です。どの短歌もすてきで、毎日書写してました。
M たしかあれは天野さん自身がもともとご自身の好きな歌を書写して集めたものですよね。
Y それこそまだ歌の世界をぜんぜん知らないわたしにとって『ウタノタネ』は道しるべになるような本でした。
M うえの歌はどうでしょうか?
Y ええ、とても好きな歌です。手紙ってふつう読むもんじゃないですか。わたしたちが読み、関与することによって手紙って手紙性を帯びるとおもうんですが、天野さんのこの歌では手紙の自律性への願いがありますよね。わたしが関与しなくても、手紙独自の自律性で、手紙がたちあがる。そしてそのことによって手紙は手紙でないべつのものに変わる。
M そうなんですよね。語り手が願っているのは「手紙がほしい」ってことなんですけど、一般的に流通するような手紙ではない。だれかがだれかに届けるような手紙でもない。それは手紙が独自の自律性でひとりで花ひらくような手紙なんですよね。
Y いまお話していておもったんですが、これって一見すごくあたたかくて、ほんわかしていて、いい歌じゃないですか。でもいま話していておもったんですが、実はこれってめちゃくちゃ孤独の歌だったりしませんか。だって、手紙の交通性を奪いとって、手紙は花になることで手紙性そのものを奪われてしまうんですよ。
M あのー、わたし、ときどき思うんですが、いい歌や句って、希望の側面と絶望の側面を両方かねそなえているのではないかとおもうんですよね。そのどちらの価値をも含みあわせることによって読み手にそのつど立ち位置を〈決め〉させる。それが短詩のひとつの〈声(ヴォイス)〉なんじゃないかとおもったりもするんですよね。
Y だからほんとに短詩ってそれ自体、〈タネ〉なんですよね。読み手の照らすひかりによってどのような花としても咲かすことができる。
M (そうですそうです……だいじょうぶです……さっきの聞こえていましたよ…)
Y (やだな……恥ずかしいな……このMってひと、なんかあんまり合わない気もするな、このMってひとなんかやだな)
M (ええと…こころの声……いちお、ぜんぶ聞こえてくるんですよね)
Yはふと眼をつぶった。ひだまりがあって、手紙が置いてある。タチ・マチと音をたてて、手紙から花が咲きほこる。Yはおもう。ここには希望も絶望もあると。
M (ちっ、現実逃避か……)
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