【感想】マンホールの蓋持ち上がる星月夜 野口裕
- 2015/03/30
- 18:13
マンホールの蓋持ち上がる星月夜 野口裕
*
M 野口裕さんの一句です。
Y 『週刊俳句』のバックナンバーずっと読み進めているんですが、野口裕さんの連載「林田紀音夫全句集拾読」、とても面白いです。
M そういえば、あれ、Yさん、ちょっと浮かび上がってませんか?
Y あれ、浮かび上がってますか? なんでだろ、春だからかな。
M そうなんです、この句も、マンホールのふたを〈持ち上げる〉じゃなくて、〈持ち上がる〉なんですよね。ですから、マンホールに働きかけている主体がない。主体が、わからないんです。謎のちからです。
Y (浮きながら)それで不思議な感じがするんですね。
M しかも「星月夜」ですから、労働に支配されない夜の時間です。労働に支配されないっていうのは、主体がたゆたうってことですよね。だれかが・だれかに働きかけたり、だれかがだれかになにかをさせたりする昼の時間ではなく、それぞれの主体が溶け合い、溶接しあうような時間が「星月夜」の時間なんじゃないかと。
Y だからなんだかSF的でもありますよね。超越的というか。「ワレワレハコノチキュウノマンホールノフタヲモチアゲル」的ななにかがここにはあるようにも思います。
M そういう超越的な力が働いた結果、マンホールがもちあがっていますよね。
Y マンホールの短詩といえば笹井宏之さんのこんな短歌がありましたよね。
午前五時 すべてのマンホールのふたが吹き飛んでとなりと入れ替わる 笹井宏之
これもマンホールが自律的に動いていますね。午前五時ですから、薄明というかもう陽がさしはじめる頃、でもひとびとはまだ動き出していない時間帯ですね。新聞屋さんがぎりぎり目撃するくらいの。
M 笹井さんの場合は「午前五時」というジャストタイムや、「すべての」というはっきりした限定、また「入れ替わる」というシステム性が大事なように思うんですよね。もちろんこれも〈かみさま〉のしわざといっていような超越的な力なんですが、でもそこにはあるシステム=体系=ルールがありそうです。
Y なんでマンホールなんだろう。というかこの対談、以前から穴の話ばかりですね。穴がだいすきなんだろうか。いや、だいすきだけれども。穴。
M でもその穴というのがマンホールのポイントなんだとおもいます。マンホールっていうのは地下と地上をわかつ境界線なわけです。で、わたしたちはマンホールによって地下/地上を構造的に理解していますが、しかしそれはあくまで仮想の構造であって、わたしたちはマンホールの下を〈知っている〉わけではないんですよね。仮想的構造として理解しているだけであって。たとえばマルクスの思想から資本主義はこう、社会主義はこう、って理解したとしてもあくまでそれは構造であって、構造化する構造のようないきづくマグマについてよくわからないところがあるわけですよね。生命とか労働とかセックスとかそういう構造化できないものがこの世界にはあるから。
Y そういう構造化できないマグマのふたのようなものとしてもマンホールはあるんでしょうか。あ、そういえば、超越的な力といえば、おなじ野口さんの句でこんな印象的な句がありますよね。
月面をピザカッターが走り抜ける 野口裕
やっぱりここでも「走り抜ける」となっていてピザカッター自体が主体になっていますね。
M だから、ピザカッターがかってにある自律性のなかで走り抜けていくようなそんなシステムのこわさがありますよね。でもピザカッターというとても身近なものだから、それはわたしたちの〈てもと〉にいつもあるようなシステムかもしれないし。
Y わたしたちの眼にみえないシステムとしての穴がこの世界にはたくさんあってそれをときどき短詩は感知してしまうということなんだろうか。あ、
●
そういっている矢先から、こんなところにも穴がでてきましたね。穴から風も吹き出している。
M いままで黙っていたんですが、実はわたしはいつもこの穴を出入りしてYさんに話にきていたんですよ。
Y (………!?……)
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M 野口裕さんの一句です。
Y 『週刊俳句』のバックナンバーずっと読み進めているんですが、野口裕さんの連載「林田紀音夫全句集拾読」、とても面白いです。
M そういえば、あれ、Yさん、ちょっと浮かび上がってませんか?
Y あれ、浮かび上がってますか? なんでだろ、春だからかな。
M そうなんです、この句も、マンホールのふたを〈持ち上げる〉じゃなくて、〈持ち上がる〉なんですよね。ですから、マンホールに働きかけている主体がない。主体が、わからないんです。謎のちからです。
Y (浮きながら)それで不思議な感じがするんですね。
M しかも「星月夜」ですから、労働に支配されない夜の時間です。労働に支配されないっていうのは、主体がたゆたうってことですよね。だれかが・だれかに働きかけたり、だれかがだれかになにかをさせたりする昼の時間ではなく、それぞれの主体が溶け合い、溶接しあうような時間が「星月夜」の時間なんじゃないかと。
Y だからなんだかSF的でもありますよね。超越的というか。「ワレワレハコノチキュウノマンホールノフタヲモチアゲル」的ななにかがここにはあるようにも思います。
M そういう超越的な力が働いた結果、マンホールがもちあがっていますよね。
Y マンホールの短詩といえば笹井宏之さんのこんな短歌がありましたよね。
午前五時 すべてのマンホールのふたが吹き飛んでとなりと入れ替わる 笹井宏之
これもマンホールが自律的に動いていますね。午前五時ですから、薄明というかもう陽がさしはじめる頃、でもひとびとはまだ動き出していない時間帯ですね。新聞屋さんがぎりぎり目撃するくらいの。
M 笹井さんの場合は「午前五時」というジャストタイムや、「すべての」というはっきりした限定、また「入れ替わる」というシステム性が大事なように思うんですよね。もちろんこれも〈かみさま〉のしわざといっていような超越的な力なんですが、でもそこにはあるシステム=体系=ルールがありそうです。
Y なんでマンホールなんだろう。というかこの対談、以前から穴の話ばかりですね。穴がだいすきなんだろうか。いや、だいすきだけれども。穴。
M でもその穴というのがマンホールのポイントなんだとおもいます。マンホールっていうのは地下と地上をわかつ境界線なわけです。で、わたしたちはマンホールによって地下/地上を構造的に理解していますが、しかしそれはあくまで仮想の構造であって、わたしたちはマンホールの下を〈知っている〉わけではないんですよね。仮想的構造として理解しているだけであって。たとえばマルクスの思想から資本主義はこう、社会主義はこう、って理解したとしてもあくまでそれは構造であって、構造化する構造のようないきづくマグマについてよくわからないところがあるわけですよね。生命とか労働とかセックスとかそういう構造化できないものがこの世界にはあるから。
Y そういう構造化できないマグマのふたのようなものとしてもマンホールはあるんでしょうか。あ、そういえば、超越的な力といえば、おなじ野口さんの句でこんな印象的な句がありますよね。
月面をピザカッターが走り抜ける 野口裕
やっぱりここでも「走り抜ける」となっていてピザカッター自体が主体になっていますね。
M だから、ピザカッターがかってにある自律性のなかで走り抜けていくようなそんなシステムのこわさがありますよね。でもピザカッターというとても身近なものだから、それはわたしたちの〈てもと〉にいつもあるようなシステムかもしれないし。
Y わたしたちの眼にみえないシステムとしての穴がこの世界にはたくさんあってそれをときどき短詩は感知してしまうということなんだろうか。あ、
●
そういっている矢先から、こんなところにも穴がでてきましたね。穴から風も吹き出している。
M いままで黙っていたんですが、実はわたしはいつもこの穴を出入りしてYさんに話にきていたんですよ。
Y (………!?……)
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