【感想】男の子産んであげると椅子が言う 榊陽子
- 2015/04/01
- 21:11
男の子産んであげると椅子が言う 榊陽子
*
Z 『川柳スープレックス』のゲストコーナーから、榊陽子さんの「な麻々々」の一句です。ふしぎなタイトルですよね、「なまなま」と読むのかな。なにか世界やことばがこわれる直前のような、ふしぎなおもしろさとこわさがあるタイトルですよね。意味として統括できないこわさや強さがある。
Y す、すいません、ふつうになんかいつものように話されていますけど、あなた、Mさんじゃないですよね。Mさんは?
Z Mさんは学期が終わったので、もう転任されました(嘘)
Y ええ!
Z Mさんは、これからはスピリチュアル・ハンターになられるそうですよ(嘘)
Y ええ!
Z あなたのことも嫌いだっていってました(嘘)。愛想が尽きたって(嘘)
Y ああ!
Z さて、川柳において「椅子」ってちょっと不思議な、あえていえばややセクシャルな語られ方がするんですね。
Y ……。
Z たとえばよく引用される川柳の椅子の句に徳永さんのこんな句があります。
いま君と椅子のかたちになっている 徳永政二
この徳永さんの句はもちろんいろんな解釈が可能です。たとえば精神的な合一のもと、「君と椅子のかたちになっている」のかもしれないし、身体的に「君と椅子のかたちになっている」のかもしれない。
Y ……。
Z ともかくですね、椅子を媒介にして、椅子をメディアにして君とのなにかが果たされている句だということができるように思います。さて、そこで榊さんの句なんですが、椅子が母胎の代わりをしてあげるといってますよね。しかもですね、「男の子産んであげる」とかなり具体的なジェンダーも背負っています。この「男の子産んであげる」の背景には〈女の子ではいけない〉〈男の子を産まなければならない〉という背景もありそうですよね。また語り手は椅子の〈声〉を聞いてしまっている状況なので、たとえば追いつめられての椅子の〈声〉という解釈もできるかもしれない。
Y ……。
Z そんなふうにですね、この句で大事なのは、この句において椅子がしゃべっているということよりも、この句のなかになにか〈こうしなければらない〉という偏差があるということ、〈わたしは男の子を産まなければならない〉という偏差や重力がかかっているということなのではないかと思うのです。だからこの句では椅子がその偏差を表出するメディアになっている。椅子が語っているわけです、この句のなかにある重力を。そして椅子が身代わりになろうとしている。でも椅子に語らせているのは語り手かもしれない。でも椅子かもしれない。
Y ……。
Z そこらへんの〈ゆらめき〉がこの句のおもしろさなんじゃないかと思うんですね。幻聴かもしれない。椅子がしゃべるわけはない。でも椅子はあまりにも〈具体的〉な様相を語っている。「男の子」も「産んであげる」もある様相を語っていますよね。状況の様相を。
Y ……。
Z Yさん、そんなにへこまないでください。だいじょうぶです、きょうはエイプリルフールじゃないですか。ほらみてください、実はわたしはMだったんです。嘘をついてZの仮面をかぶっていたんですよ(嘘)
(仮面をはぎとるZ)
Y え、Mさん。
M 嘘ですよ。わたしこそがZなんだ(嘘)
(仮面をはぎとるM)
Y ああもうなにがなんだか。
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Z 『川柳スープレックス』のゲストコーナーから、榊陽子さんの「な麻々々」の一句です。ふしぎなタイトルですよね、「なまなま」と読むのかな。なにか世界やことばがこわれる直前のような、ふしぎなおもしろさとこわさがあるタイトルですよね。意味として統括できないこわさや強さがある。
Y す、すいません、ふつうになんかいつものように話されていますけど、あなた、Mさんじゃないですよね。Mさんは?
Z Mさんは学期が終わったので、もう転任されました(嘘)
Y ええ!
Z Mさんは、これからはスピリチュアル・ハンターになられるそうですよ(嘘)
Y ええ!
Z あなたのことも嫌いだっていってました(嘘)。愛想が尽きたって(嘘)
Y ああ!
Z さて、川柳において「椅子」ってちょっと不思議な、あえていえばややセクシャルな語られ方がするんですね。
Y ……。
Z たとえばよく引用される川柳の椅子の句に徳永さんのこんな句があります。
いま君と椅子のかたちになっている 徳永政二
この徳永さんの句はもちろんいろんな解釈が可能です。たとえば精神的な合一のもと、「君と椅子のかたちになっている」のかもしれないし、身体的に「君と椅子のかたちになっている」のかもしれない。
Y ……。
Z ともかくですね、椅子を媒介にして、椅子をメディアにして君とのなにかが果たされている句だということができるように思います。さて、そこで榊さんの句なんですが、椅子が母胎の代わりをしてあげるといってますよね。しかもですね、「男の子産んであげる」とかなり具体的なジェンダーも背負っています。この「男の子産んであげる」の背景には〈女の子ではいけない〉〈男の子を産まなければならない〉という背景もありそうですよね。また語り手は椅子の〈声〉を聞いてしまっている状況なので、たとえば追いつめられての椅子の〈声〉という解釈もできるかもしれない。
Y ……。
Z そんなふうにですね、この句で大事なのは、この句において椅子がしゃべっているということよりも、この句のなかになにか〈こうしなければらない〉という偏差があるということ、〈わたしは男の子を産まなければならない〉という偏差や重力がかかっているということなのではないかと思うのです。だからこの句では椅子がその偏差を表出するメディアになっている。椅子が語っているわけです、この句のなかにある重力を。そして椅子が身代わりになろうとしている。でも椅子に語らせているのは語り手かもしれない。でも椅子かもしれない。
Y ……。
Z そこらへんの〈ゆらめき〉がこの句のおもしろさなんじゃないかと思うんですね。幻聴かもしれない。椅子がしゃべるわけはない。でも椅子はあまりにも〈具体的〉な様相を語っている。「男の子」も「産んであげる」もある様相を語っていますよね。状況の様相を。
Y ……。
Z Yさん、そんなにへこまないでください。だいじょうぶです、きょうはエイプリルフールじゃないですか。ほらみてください、実はわたしはMだったんです。嘘をついてZの仮面をかぶっていたんですよ(嘘)
(仮面をはぎとるZ)
Y え、Mさん。
M 嘘ですよ。わたしこそがZなんだ(嘘)
(仮面をはぎとるM)
Y ああもうなにがなんだか。
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