【短歌・連作】「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」『かばん』2015年4月号
- 2015/04/11
- 22:29
【詞書】いつも一人の女の子の事を書こうと思っている。一人の女の子の落ち方というものを。 岡崎京子
フキダシを割ってくように愛情のことば迸(ほとばし)る漫画じゃないの
助詞だけを塗りたくってねセクシャルなことをしようよ口は七つある
アルバムの画像整理のなかにある裸の羊 めえめえんと・もり
タブレットたたき割ってくあたしには星空さえもスクロールする
避妊具をとてもスムーズにつけるから生きてることが共感できる
さめ肌の恋人の首撫でている 羊のタトゥー、どこにゆきたいの?
セックスを三回続けてしたあとの止んだ青空正午が遠い
同棲のなかで借りて乗る自転車があたしのよすが(わすれてしまう)
柳本々々「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」『かばん』2015年4月号
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【添え書きの花園】
岡崎京子さんのどこにもゆかない、たどりつかない、展開されない、なにも回収しない、あおぞらが、いつも気になっている。青空を死体のように描き、死体に青空を見いだしたひと。
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本号にてあまねそうさん、ながや宏高さんから、ていねいな歌評をいただきました。読ませていただいてとても勉強になりました。ありがとうございました!
すること、じゃ/なく、しないこと/も、つみなん/ですよね、としたたらず、わたしは 柳本々々
「セックスレス」という言葉が問題視されるようになってくると、どちらも罪。とすれば、どうすればいいのか、という矛盾。それだけ性の話題に関心があり皆それぞれ言いたいことがあると言うことなのだろう。この一首では、「しないこと/も、つみなん/ですよね」でその後の性行為へと自身も相手もいざなわれていく構成になっている。意外性のある呼びかけかつ、現代的でもあろう。/で定型に区切られた上の句がまさにしたたらずで、表現としてもおもしろい。 あまねそう「二月号評~深層との対話~」
冬の夜楽譜のように飛び散った♪(せいし)の行方たどるAV 柳本々々
楽譜→音符(♪)→精子→AV、要素をピックアップすると連想ゲームみたいですね。精子がおたまじゃくしのように見えるのは、顕微鏡からのぞいたときだけで、肉眼でとらえられるものではありません(そもそも映像のなかのできごとを歌にしていますし)。作中で言われているのは、写真か、映像のとちらかで獲得したイメージに、さらに別のイメージが上乗せされた精子なのです。
実際に見たものではなく、イメージからイメージして、そのイメージから言葉がでてきて、さらにその言葉からまた言葉をつくって、というような。こうした構造を意図的に見せている歌なのではないかと思いました。 ながや宏高「二月号評」
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『基礎問題精講』を解く玉ねぎにすかしたような日の射す部屋で あまねそう
玄関に見知らぬ靴を発見し私に戻るまでの一秒 ながや宏高
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今月号の表紙絵は、東直子さんの「桜の舟」です。
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