【感想】何んといふひろいくさはらこの原になぜまつすぐの道つけないか 前川佐美雄
- 2015/04/24
- 12:00
何んといふひろいくさはらこの原になぜまつすぐの道つけないか 前川佐美雄
【なんにもしないちから】
ときどき、草原について考えているんですが、川柳でも草原という場所がたびたび出てくるんですね。
で、その草原で現代川柳ならばなにをするかというとたとえば殴り合ったりする。
なんで殴りあえるのかといえば、たぶん、草原が誰のものでもない場所だからだとおもうんですね。
つまり、亡霊的場所とでもいえばいいのか。
所有化されていないっていうのはそういうことなんじゃないかとおもうんです。
メルヴィルの書いたとても不思議で不気味な小説に「代書人バートルビー」という中篇があるんですが、バートルビーはどんな仕事を頼んでも「できればそうせずにすめばありがたいのですが」と拒むんですね。これは拒む小説なんです。
せっかく雇ったのにすべて頼んだ仕事拒まれてしまう。なんのためにいるのか。かれは。
で、かれは〈なんにもしない〉んです。なんにもしないで、ただ壁をみている。バートルビーはわりと壁が好きなようなんです。
で、最終的に上司はバートルビーを追い出すというより、バートルビーがこわくなって事務所を変えるんだけれど、バートルビーは食べることも拒むようになって、死んでいきます。
で、ですね。このバートルビーの要点って、だれにも、制度にも、システムにも、社会にも〈所有化〉されないということなんじゃないかとおもうんです。
イエス、ということ、はい、ということ、承諾するということとは、じつはじぶんが社会や制度や他者から所有化されることだったりもする。
でも、バートルビーは徹底してそれを避けた。はい、と徹底していわないことによって、なにものからも所有化されなかった。主体化することを避けた。なんにもしないちからを、フルに活用した。
この所有化されないちからは、すこし草原に似ています。所有化されない場所のちから。たぶん俳句におけるすすきやかるかやが生えた花野もそうなんじゃないかなっておもうんです。花野もたしか俳句ではわりとふしぎなことが起こってたはずです。
で、前川さんの歌なんですが、前川さんの歌は実はそこに大胆に切り込んでいるんじゃないかとおもうんです。
「まつすぐの道」をひくということは、だれかのために・なにかのために、その場所が〈所有化〉されるということです。それは法的じゃなくて、意味によって〈所有〉されるということでもいいんです。草原にいっぽん道ができれば、それは〈意味〉になる。意味から「ひろいくさはら」は所有されてしまう。
そうした「ひろいくさはら」の緊張感を詠んだ歌なんじゃないかなっておもうわけです。
だからたとえ「このひろいくさはらにいっぽんのまっすぐなみちをひいてね」といわれても、この緊張感をつづけるためにはバートルビーのようにこんなふうにいうしかありません。
できればそうせずにすめばありがたいのですが。
佐美雄「…………!?…」
【なんにもしないちから】
ときどき、草原について考えているんですが、川柳でも草原という場所がたびたび出てくるんですね。
で、その草原で現代川柳ならばなにをするかというとたとえば殴り合ったりする。
なんで殴りあえるのかといえば、たぶん、草原が誰のものでもない場所だからだとおもうんですね。
つまり、亡霊的場所とでもいえばいいのか。
所有化されていないっていうのはそういうことなんじゃないかとおもうんです。
メルヴィルの書いたとても不思議で不気味な小説に「代書人バートルビー」という中篇があるんですが、バートルビーはどんな仕事を頼んでも「できればそうせずにすめばありがたいのですが」と拒むんですね。これは拒む小説なんです。
せっかく雇ったのにすべて頼んだ仕事拒まれてしまう。なんのためにいるのか。かれは。
で、かれは〈なんにもしない〉んです。なんにもしないで、ただ壁をみている。バートルビーはわりと壁が好きなようなんです。
で、最終的に上司はバートルビーを追い出すというより、バートルビーがこわくなって事務所を変えるんだけれど、バートルビーは食べることも拒むようになって、死んでいきます。
で、ですね。このバートルビーの要点って、だれにも、制度にも、システムにも、社会にも〈所有化〉されないということなんじゃないかとおもうんです。
イエス、ということ、はい、ということ、承諾するということとは、じつはじぶんが社会や制度や他者から所有化されることだったりもする。
でも、バートルビーは徹底してそれを避けた。はい、と徹底していわないことによって、なにものからも所有化されなかった。主体化することを避けた。なんにもしないちからを、フルに活用した。
この所有化されないちからは、すこし草原に似ています。所有化されない場所のちから。たぶん俳句におけるすすきやかるかやが生えた花野もそうなんじゃないかなっておもうんです。花野もたしか俳句ではわりとふしぎなことが起こってたはずです。
で、前川さんの歌なんですが、前川さんの歌は実はそこに大胆に切り込んでいるんじゃないかとおもうんです。
「まつすぐの道」をひくということは、だれかのために・なにかのために、その場所が〈所有化〉されるということです。それは法的じゃなくて、意味によって〈所有〉されるということでもいいんです。草原にいっぽん道ができれば、それは〈意味〉になる。意味から「ひろいくさはら」は所有されてしまう。
そうした「ひろいくさはら」の緊張感を詠んだ歌なんじゃないかなっておもうわけです。
だからたとえ「このひろいくさはらにいっぽんのまっすぐなみちをひいてね」といわれても、この緊張感をつづけるためにはバートルビーのようにこんなふうにいうしかありません。
できればそうせずにすめばありがたいのですが。
佐美雄「…………!?…」
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