【感想】春の昼ひよこまみれになりやすい 石原ユキオ

春の昼ひよこまみれになりやすい　　石原ユキオ


【音律まみれの春を後にして】

Ｍ　ユキオさんの「 憑依俳句集 ルッカリー 」からの一句です。

Ｙ　この句、すごく好きなんですけど、あの、そもそもルッカリーってどういう意味なんでしょうか。

Ｍ　ルッカリーっていうのは、ペンギンが子育てする場所のことです。ほら、よく、大沢たかおとか津嘉山正種がナレーションしている南極の動物ドキュメンタリーでみますよね、ペンギンまみれになっている場所を。ちょっとルッカリーのスライドがあるそうなんでみてみますか。

Ｙ　ぺ、ぺんぎんまみれじゃないですか。

Ｍ　そうなんですよね、まずタイトルがまみれていたという。

Ｙ　ひよこまみれってすごいですよね。すごいんだけど、イメージできてしまうっていう。ある意味、メディア論的な句でもありますよね。わたしたちはひよこまみれになったこともないし、たぶんみたこともないんだけれど、どこかでその映像をみていて、ひよこまみれの感触を知っているっていう。

Ｍ　すごくもふもふ感のある句ですよ。あとですね、この句のおもしろさは、音律まみれである点もそうなんじゃないかっておもうんです。「はる・ひる・まみれ・なり」とですね、おなじような風合いを連続して発声するだけで、舌を動かさなきゃならないから、音律まみれになってきます。ちなみにこの連作は「ぺんぎんぱんつ」が初出だそうなのですが、「ぺんぎんぱんつ」といえば、しんくわさんと田丸まひるさんが出されているものですから、実はこの〈まるまっこい〉音律のラッシュ、「はる・ひる・まみれ・なり」にはさらに「たまる・まひる」というまるまっこい音律が付加されているとおもうんです。つまりほんとうに、いろんなものがこの句ではまみれているとおもうんですよ。

Ｙ　この語り手の主体をみても、「なりやすい」といってる時点で、主体がひよこに汚染（まみれ）ていますよね。主体性がひよこに剥奪されている。主体としてもひよこまみれです。

Ｍ　そうなんです、このユキオさんの連作、〈鳥〉は自由なんですが、〈ひと〉は不自由なんです。さいごに鳥の自由／ひとの不自由の句をそれぞれご紹介しておわりにしましょう。

ぺんぎんに歩く自由や斑雪　　石原ユキオ

鉄柵に園児はさまる日永かな　　〃

Ｙ　（はさまっちゃったかー）