【感想】夏の墓地、愛する者を失った者特有の手の洗い方 木下龍也
- 2015/05/25
- 07:00
夏の墓地、愛する者を失った者特有の手の洗い方 木下龍也
【空間をわたしする】
きょうの加藤治郎さん選の毎日歌壇から木下さんの一首です。
この短歌で「夏の墓地」という空間提示からの「特有の手の洗い方」というそのひとのパーソナルな身体行為が空間と関わり合っていくことにもよくあらわれているとおもうんですが、木下さんの短歌のひとつのおもしろさに空間把握の仕方があるんじゃないかとおもうんです。
ハンカチを落としましたよああこれは僕が鬼だということですか 木下龍也
花束を抱えて乗ってきた人のためにみんなでつくる空間 〃
〈ハンカチが落とされる〉ことによって生じた空間からの、パーソナルな〈鬼〉化。「ああこれは」というふいの気づきでしかないですが、ハンカチ落としを超えて〈鬼=あちら側の住人〉になるというけっていてきな境界の踏み越えがなされます。
花束も、花束でしかないものなのだけれども、それによって〈みんな〉という一時的な仮構の共同体がうまれ、みんなとあなたと分けられてしまう。あたたかい短歌であると同時に、もし花束が「包丁」でも〈みんな〉は仮構されるのだから、そういった批評性もあわせもつ短歌だともおもうんですね。
とつぜんあらわれる〈みんな〉。そのふいうちの〈みんな〉にきがついたしゅんかんに、〈わたし〉が〈わたし〉として身体的にあらわれ、それをひきうけざるをえなくなる。
やっていること、していることは、ふつうであり、日常と地続きなはずなのに、そのひとに《しか》できない《空間》がうまれる、と同時に、ある意味、〈みんな〉から疎外されてしまう。
空間はどこからともなくやってきて、境界線を引き、わたしたち/あなたたちという共同体をそくざにたちあげ、《気がつけば》疎外されている。それはあしたのあなたの疎外にもつながっている。
そうした独特な空間把握があるのではないかとおもうんです。
カードキー忘れて水を買いに出て僕は世界に閉じ込められる 木下龍也
ああむこう側にいるのかこの蠅はこちら側なら殺せるのにな 〃
こちら側にいたはずのわたしは、いつでもあちら側になりうるということ。というよりも、〈潜在的みんな〉でありつつ、〈潜在的あちら側〉に棲んでもいるのだということ。
われわれは意味を笑うのでも無意味を笑うのでもない、われわれが笑うのは意味の構築性であり、ひとが言葉を語ることを可能にしているポジションそのものを笑うのだ。 ジュリア・クリステヴァ
【空間をわたしする】
きょうの加藤治郎さん選の毎日歌壇から木下さんの一首です。
この短歌で「夏の墓地」という空間提示からの「特有の手の洗い方」というそのひとのパーソナルな身体行為が空間と関わり合っていくことにもよくあらわれているとおもうんですが、木下さんの短歌のひとつのおもしろさに空間把握の仕方があるんじゃないかとおもうんです。
ハンカチを落としましたよああこれは僕が鬼だということですか 木下龍也
花束を抱えて乗ってきた人のためにみんなでつくる空間 〃
〈ハンカチが落とされる〉ことによって生じた空間からの、パーソナルな〈鬼〉化。「ああこれは」というふいの気づきでしかないですが、ハンカチ落としを超えて〈鬼=あちら側の住人〉になるというけっていてきな境界の踏み越えがなされます。
花束も、花束でしかないものなのだけれども、それによって〈みんな〉という一時的な仮構の共同体がうまれ、みんなとあなたと分けられてしまう。あたたかい短歌であると同時に、もし花束が「包丁」でも〈みんな〉は仮構されるのだから、そういった批評性もあわせもつ短歌だともおもうんですね。
とつぜんあらわれる〈みんな〉。そのふいうちの〈みんな〉にきがついたしゅんかんに、〈わたし〉が〈わたし〉として身体的にあらわれ、それをひきうけざるをえなくなる。
やっていること、していることは、ふつうであり、日常と地続きなはずなのに、そのひとに《しか》できない《空間》がうまれる、と同時に、ある意味、〈みんな〉から疎外されてしまう。
空間はどこからともなくやってきて、境界線を引き、わたしたち/あなたたちという共同体をそくざにたちあげ、《気がつけば》疎外されている。それはあしたのあなたの疎外にもつながっている。
そうした独特な空間把握があるのではないかとおもうんです。
カードキー忘れて水を買いに出て僕は世界に閉じ込められる 木下龍也
ああむこう側にいるのかこの蠅はこちら側なら殺せるのにな 〃
こちら側にいたはずのわたしは、いつでもあちら側になりうるということ。というよりも、〈潜在的みんな〉でありつつ、〈潜在的あちら側〉に棲んでもいるのだということ。
われわれは意味を笑うのでも無意味を笑うのでもない、われわれが笑うのは意味の構築性であり、ひとが言葉を語ることを可能にしているポジションそのものを笑うのだ。 ジュリア・クリステヴァ
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