【感想】日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも 塚本邦雄
- 2015/06/01
- 12:11
日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも 塚本邦雄
【ペンギンから読む塚本邦雄】
荻原裕幸さんがかつて『短歌人』(1992年11月)における「夏の大会シンポジウム 歌のよみかた」でこの歌を「これ、海外旅行と考えてもいいです。そんな単純な仕組なんじゃないか」と指摘されているんですが、たとえばこの有名なよくよく引用される歌を〈あえて〉ナショナルな枠組みにも政治的枠組みにも向かわないかたちで〈読んでみる〉と、どうなるのか。
ひとつ気になるのが、まず〈あなた〉はどうなんですか、ということです。
語り手である〈あなた〉は脱出したくないんですか、と。
「皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも」「日本脱出した」い状況のなかで語り手は〈わたし〉については語っていない。なぜか〈ペンギン〉にまつわる〈脱出〉のことしか語っていない。語り手がどういう〈位置〉に立っているかもわからない。
語り手は、〈どう〉かんがえているかわからない。わからないけれど、ペンギンにすごく興味があるらしいということは、わかる。
ただのアバウトなペンギンではなく、「皇帝ペンギン」だからです。きちんとペンギンの取捨選択もしている。
だからこれはひとまず、〈わたし〉の位置を語らない語り手が〈ペンギン〉についてくわしくことこまかに語ろうとする歌だということがわかります。
でも語り手について、なんとなくわかることがあります。
それはレトリックを用いながらペンギンについて語ろうとしている点です。
「皇帝ペンギン係りも皇帝ペンギン飼育係りも」というのは(ペンギンの)リフレインです。また「日本脱出したし 皇帝ペンギン係りも皇帝ペンギン飼育係りも」は倒置法です。また一字空きも技法です。ここで一音あけることによって、皇帝ペンギンがとつぜんあらわれることの意味性が強調・強意されるからです。
この語り手はレトリックを使うほどには〈余裕〉をみせているということがいえるのではないかとおもいます。
これはけっこう大事なことなんじゃないかとおもいます。
なぜなら、自身も脱出しようとおもうのであれば、レトリックを使う〈余地〉はないだろうから、です。
つまり、語り手と「皇帝ペンギン」・「皇帝ペンギン飼育係り」の間には歴然とした〈落差〉があります。
だから、わたしはひとまずこの短歌は〈落差〉の歌なのではないかとおもうのです。
かんがえてみるとこの歌には、〈落差〉がおおい。
まず語り手とペンギンたちの落差。それから、「皇帝」と「ペンギン」の落差。「日本」と「脱出」の落差。「日本」と「ペンギン」の落差。「ペンギン」と「脱出」の落差。短歌とペンギンの落差。
でもこれらすべての〈落差〉をいっしゅんでナチュラルに埋めているのが〈短歌〉です(あるいはもしかすると〈塚本邦雄〉という記号の統辞です)。
これはいまにも落差だらけでばらばらになりそうな記号たちが(すなわち、ペンギンのように固まってはいるがばらばらな記号の群が)、しかし〈短歌〉というたったひとつのコードによって結ばれている、ある意味で記号たちを〈脱出〉させないようとりおさえている、そういう短歌なのではないかと、おもうのです。
あるペンギン的側面からみた場合によっては。
空を飛ぶペリカンたちと自転車の後ろに乗せたペンギン南へ しんくわ
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