【お知らせ】ウェブマガジン『アパートメント』のはらだ有彩さん毎月連載「日本のヤバい女の子」のレビュー担当に。
- 2015/06/01
- 21:02
あなたがたとえ〈だれ〉であろうと(たとえあなたが馬やエイリアンだったとしても)、にもかかわらずあなたを好きになるわたしの〈強さ〉と〈ヤバさ〉はわたしをきっと、たくましくする。
以前『アパートメント』というウェブマガジンで「夢八夜」という短詩小説を連載させていただいていたんですが、今回その『アパートメント』で毎月連載されるはらだ有彩(はりー)さんの「日本のヤバい女の子」のレビュアーを担当することになりました(上はTwitter用の短いレビューです。長文レビューは『アパートメント』のフェイスブックに掲載されます)。
はりーさんの連載第1回目は、「結婚とヤバい女の子 」です。
実ははりーさんはおなじ第19期でわたしの前の曜日の担当だった方で、で、はりーさんの連載には『雨月物語』や『牡丹灯籠』など怪談のなかの〈ヤバい〉女の子がたくさん取り上げられていて、わたしも民俗学や近世文学を大学で学んでいたのでたのしく読ませていただいていました。だからそういう同期アパートメントつながりをさせていただいていた方であると同時に、あともうひとつ、ふたりともおなじ安福望さんから紹介をいただいたということでも共通していたんですね。はりーさんとわたしは第19期、安福さんは第17期でした。
6月の今回は、〈異類婚姻譚とヤバい女の子〉がテーマのはりーさんのエッセイです。
以下は、わたしが今回書いたレビューです。
※ ※
結婚して、一緒に住み、家事をする。毎日毎日洗濯して、掃除して、ごはんを作る。
それがゴールだとするなら、わたしは誰とも恋なんかしない。と、ひかりは仙人のような無風の心で思った。
それだったら、まーくんがいいや。
気心が知れた、究極的に安らぐグダグダの関係を、ひかりは愛する。ただ、まーくんの手ごたえのなさったら、半端ではないけど。
山内マリコ「かわいい結婚」
*
今回のはりーさんのお話は〈結婚〉と〈異類婚姻譚〉をめぐるお話です。たとえば今回の〈ヤバい女の子〉は〈馬〉を大好きになってしまう。なにが〈ヤバい〉のかといえば、馬を大好きになることはヤバくはありません。ただ、それを許容できない父親との関係性において〈ヤバさ〉がでてくるわけです。社会的関係性が、ノーをつきつけてくる。
そこの葛藤をはりーさんは描いてるとおもうんです。
はりーさんの文章に出てくる女の子はいつも〈女の子性〉にとらわれず〈強さ〉をたたえていると思うんですが、今回も〈結婚〉という制度の内側にありながら、それでも〈馬と添い遂げたい〉という〈意志の貫徹〉によって、〈こちら側〉でなく、〈あちら側〉で〈こたえ〉をさがす〈女の子〉をめぐる話になっているとおもいます。
でも、大事なのは、女の子が大好きな馬といっしょにあちら側に行っても、わたしたちはいつも〈こちら側〉で生きていかなければならないということです。
だから〈あちら側〉の物語を模索しながら、馬と添い遂げた女の子が呉れたひとつのアンサーを手にして、〈こちら側〉の生であがき・もがき・さがしつづけなければならない。
はりーさんも、いっています。
「ひとりでいても、誰といても、あなたが楽しいと私はうれしい。結婚の予定なんかなくても、きれいな着物を着てカメラの前ですましてポーズをとったりしようよ。もう式も披露宴も済ませていたって、何度もパーティをしようよ。気に入りのドレスを着て一人旅に出よう。ふざけてお祝儀100万円包んだりしよう。2で割り切れちゃう金額だけど、ちょっと景気いいでしょう」
これって、もしかすると、じぶんみずからのなかにも〈異類〉をさがすこと、わたしになりきれなかったわたしをみつけることではないでしょうか。
わたしがわたしと〈異類婚姻〉すること。
わたしのなかにおける、わたしの〈異類婚姻譚〉をみつけること。
わたしは今回のはりーさんのエッセイを読んで、川上弘美の小説『神様』の、熊を大好きになった「わたし」の〈出せない手紙〉を書いてねむるラストシーンを、思い出しました。
あなたがたとえ〈だれ〉であろうと、にもかかわらずあなたを好きになる〈強さ〉と〈ヤバさ〉はわたしをきっと、たくましくする。
*
最後まで名前のないくまだったと思いながら、宛先が空白になっている封筒に返事をたたんで入れ、切手をきちんと貼り、裏に自分の名前と住所を書いてから、机の奥にしまった。
寝床で、眠りに入る前に熊の神様にお祈りをした。人の神様にも少しお祈りをした。ずっと机の奥にしまわれているだろうくま宛の手紙のことを思いながら、深い眠りに入っていった。
川上弘美『神様』
以前『アパートメント』というウェブマガジンで「夢八夜」という短詩小説を連載させていただいていたんですが、今回その『アパートメント』で毎月連載されるはらだ有彩(はりー)さんの「日本のヤバい女の子」のレビュアーを担当することになりました(上はTwitter用の短いレビューです。長文レビューは『アパートメント』のフェイスブックに掲載されます)。
はりーさんの連載第1回目は、「結婚とヤバい女の子 」です。
実ははりーさんはおなじ第19期でわたしの前の曜日の担当だった方で、で、はりーさんの連載には『雨月物語』や『牡丹灯籠』など怪談のなかの〈ヤバい〉女の子がたくさん取り上げられていて、わたしも民俗学や近世文学を大学で学んでいたのでたのしく読ませていただいていました。だからそういう同期アパートメントつながりをさせていただいていた方であると同時に、あともうひとつ、ふたりともおなじ安福望さんから紹介をいただいたということでも共通していたんですね。はりーさんとわたしは第19期、安福さんは第17期でした。
6月の今回は、〈異類婚姻譚とヤバい女の子〉がテーマのはりーさんのエッセイです。
以下は、わたしが今回書いたレビューです。
※ ※
結婚して、一緒に住み、家事をする。毎日毎日洗濯して、掃除して、ごはんを作る。
それがゴールだとするなら、わたしは誰とも恋なんかしない。と、ひかりは仙人のような無風の心で思った。
それだったら、まーくんがいいや。
気心が知れた、究極的に安らぐグダグダの関係を、ひかりは愛する。ただ、まーくんの手ごたえのなさったら、半端ではないけど。
山内マリコ「かわいい結婚」
*
今回のはりーさんのお話は〈結婚〉と〈異類婚姻譚〉をめぐるお話です。たとえば今回の〈ヤバい女の子〉は〈馬〉を大好きになってしまう。なにが〈ヤバい〉のかといえば、馬を大好きになることはヤバくはありません。ただ、それを許容できない父親との関係性において〈ヤバさ〉がでてくるわけです。社会的関係性が、ノーをつきつけてくる。
そこの葛藤をはりーさんは描いてるとおもうんです。
はりーさんの文章に出てくる女の子はいつも〈女の子性〉にとらわれず〈強さ〉をたたえていると思うんですが、今回も〈結婚〉という制度の内側にありながら、それでも〈馬と添い遂げたい〉という〈意志の貫徹〉によって、〈こちら側〉でなく、〈あちら側〉で〈こたえ〉をさがす〈女の子〉をめぐる話になっているとおもいます。
でも、大事なのは、女の子が大好きな馬といっしょにあちら側に行っても、わたしたちはいつも〈こちら側〉で生きていかなければならないということです。
だから〈あちら側〉の物語を模索しながら、馬と添い遂げた女の子が呉れたひとつのアンサーを手にして、〈こちら側〉の生であがき・もがき・さがしつづけなければならない。
はりーさんも、いっています。
「ひとりでいても、誰といても、あなたが楽しいと私はうれしい。結婚の予定なんかなくても、きれいな着物を着てカメラの前ですましてポーズをとったりしようよ。もう式も披露宴も済ませていたって、何度もパーティをしようよ。気に入りのドレスを着て一人旅に出よう。ふざけてお祝儀100万円包んだりしよう。2で割り切れちゃう金額だけど、ちょっと景気いいでしょう」
これって、もしかすると、じぶんみずからのなかにも〈異類〉をさがすこと、わたしになりきれなかったわたしをみつけることではないでしょうか。
わたしがわたしと〈異類婚姻〉すること。
わたしのなかにおける、わたしの〈異類婚姻譚〉をみつけること。
わたしは今回のはりーさんのエッセイを読んで、川上弘美の小説『神様』の、熊を大好きになった「わたし」の〈出せない手紙〉を書いてねむるラストシーンを、思い出しました。
あなたがたとえ〈だれ〉であろうと、にもかかわらずあなたを好きになる〈強さ〉と〈ヤバさ〉はわたしをきっと、たくましくする。
*
最後まで名前のないくまだったと思いながら、宛先が空白になっている封筒に返事をたたんで入れ、切手をきちんと貼り、裏に自分の名前と住所を書いてから、机の奥にしまった。
寝床で、眠りに入る前に熊の神様にお祈りをした。人の神様にも少しお祈りをした。ずっと机の奥にしまわれているだろうくま宛の手紙のことを思いながら、深い眠りに入っていった。
川上弘美『神様』
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