【感想】体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ 穂村弘
- 2015/06/02
- 11:43
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ 穂村弘
【連作から読む穂村弘】
『角川短歌』1986年6月の角川短歌賞次席・穂村弘さんの「シンジケート」からの一首です。
穂村さんの短歌を初出にかえって、連作として読んでみると、どうなるのか。
今回、当時の雑誌上でこの連作「シンジケート」をみていておもったんですが、この穂村さんの「シンジケート」の連作のひとつのモチーフに〈おどろきとおののき〉があったのではないかとおもうんですね。
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ 穂村弘
とても有名な歌でよく引用される歌でもあるんですが、初出のこの連作のなかでみるとたとえばおなじ連作内にあるこんな歌と共鳴しているようにおもいます。
水滴のしたたる音にくちびるを探れば囓じるおきているのか 穂村弘
どちらの歌もですね、まず「「ゆひら」とさわぐ」「囓じる」と日常的にはありえない、容易に接続しにくい出来事がとつぜん起こります。それが〈おどろき〉です。
で、そのあとに、「雪のことかよ」「おきているのか」と〈おのの〉く。
ふいに起こった非日常的出来事に対して、〈瞬間的了解〉はするんだけれども、つまりその意味でこの短歌の語り手はクールだし、ドライだし、さといのだけれども、でも「かよ」や「のか」などの助辞によって〈おののい〉ている。〈理解〉しながら〈おのの〉く。
これが、穂村さんの短歌の連の語り手のある意味ひとつの特徴なのではないか。
つきはなすわけではない。
かといって、受け入れているわけでもない。
そのどちらをも否定しつつ・肯定しつつ〈演じる〉こと。
あと気になるモチーフが〈しゅんかん〉のモチーフです。
今ふいにまなざし我をとらえたりかなぶんの羽の中央の線 穂村弘
マネキンのポーズ動かすつかのまに姿失なう昼の三日月 〃
裏切るべきなにか求める夕闇に受話器受け(クレイドル)ふいに歯のごとし 〃
「今ふいに」、「つかのまに」、「ふいに」。
ここには〈しゅんかん〉から立ち上がる出来事性がある。
〈しゅんかん〉から立ち上がる出来事性って、どういうことなのか。
さっきの〈おどろきとおののき〉からの流れでいえば、これは語り手が世界にふだん接続していないから、ということがいえるのではないでしょうか。
とつぜんやってくるわけです。とつぜんつながってしまうわけです。ふだんはアクセスしていない場所へのアクセスが。
語り手はとつぜん世界に接続してしまう。しゅんかんてきに。
だから、おどろいてしまう。でも、理解してしまう。理解するけれど、うけいれたくないから助辞でやんわりとおしかえしてしまう。ポーズをとる。
子供よりシンジケートをつくろうよ「壁に向って手をあげなさい」 穂村弘
〈シンジケート〉にとつぜんアクセスしようとする。「子供より」というたった5音で状況をおしのけ・書き換えて。
その意味で〈シンジケート〉っていうのは、瞬間犯罪組織のことだったのではないかとも、おもうんです。
瞬間芸を得意とする短歌だけができる犯罪です。
「とりかえしのつかないことがしたいね」と毛糸を玉に巻きつつ笑う 穂村弘
【連作から読む穂村弘】
『角川短歌』1986年6月の角川短歌賞次席・穂村弘さんの「シンジケート」からの一首です。
穂村さんの短歌を初出にかえって、連作として読んでみると、どうなるのか。
今回、当時の雑誌上でこの連作「シンジケート」をみていておもったんですが、この穂村さんの「シンジケート」の連作のひとつのモチーフに〈おどろきとおののき〉があったのではないかとおもうんですね。
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ 穂村弘
とても有名な歌でよく引用される歌でもあるんですが、初出のこの連作のなかでみるとたとえばおなじ連作内にあるこんな歌と共鳴しているようにおもいます。
水滴のしたたる音にくちびるを探れば囓じるおきているのか 穂村弘
どちらの歌もですね、まず「「ゆひら」とさわぐ」「囓じる」と日常的にはありえない、容易に接続しにくい出来事がとつぜん起こります。それが〈おどろき〉です。
で、そのあとに、「雪のことかよ」「おきているのか」と〈おのの〉く。
ふいに起こった非日常的出来事に対して、〈瞬間的了解〉はするんだけれども、つまりその意味でこの短歌の語り手はクールだし、ドライだし、さといのだけれども、でも「かよ」や「のか」などの助辞によって〈おののい〉ている。〈理解〉しながら〈おのの〉く。
これが、穂村さんの短歌の連の語り手のある意味ひとつの特徴なのではないか。
つきはなすわけではない。
かといって、受け入れているわけでもない。
そのどちらをも否定しつつ・肯定しつつ〈演じる〉こと。
あと気になるモチーフが〈しゅんかん〉のモチーフです。
今ふいにまなざし我をとらえたりかなぶんの羽の中央の線 穂村弘
マネキンのポーズ動かすつかのまに姿失なう昼の三日月 〃
裏切るべきなにか求める夕闇に受話器受け(クレイドル)ふいに歯のごとし 〃
「今ふいに」、「つかのまに」、「ふいに」。
ここには〈しゅんかん〉から立ち上がる出来事性がある。
〈しゅんかん〉から立ち上がる出来事性って、どういうことなのか。
さっきの〈おどろきとおののき〉からの流れでいえば、これは語り手が世界にふだん接続していないから、ということがいえるのではないでしょうか。
とつぜんやってくるわけです。とつぜんつながってしまうわけです。ふだんはアクセスしていない場所へのアクセスが。
語り手はとつぜん世界に接続してしまう。しゅんかんてきに。
だから、おどろいてしまう。でも、理解してしまう。理解するけれど、うけいれたくないから助辞でやんわりとおしかえしてしまう。ポーズをとる。
子供よりシンジケートをつくろうよ「壁に向って手をあげなさい」 穂村弘
〈シンジケート〉にとつぜんアクセスしようとする。「子供より」というたった5音で状況をおしのけ・書き換えて。
その意味で〈シンジケート〉っていうのは、瞬間犯罪組織のことだったのではないかとも、おもうんです。
瞬間芸を得意とする短歌だけができる犯罪です。
「とりかえしのつかないことがしたいね」と毛糸を玉に巻きつつ笑う 穂村弘
- 関連記事
スポンサーサイト
- テーマ:読書感想文
- ジャンル:小説・文学
- カテゴリ:々々の短歌感想