【感想】誰も知らない(あたしは知ってる)-はるかなる恋人をめぐって-
- 2015/06/04
- 12:17
そのクリームパンは
日なたにおかれるとたちまち腐るという
そのクリームパンを
あたしは天使とおもった
そのクリームパンを
あたしは食べてない
売っている店は
あなたとあなたの恋人しか知らない
あたしは知らない 雪舟えま
恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の死 穂村弘
お店から盗って来た本くれる彼 竹井紫乙
【わたしを知らない(わたしは知ってる)】
雪舟さんの詩、穂村さんの短歌、紫乙さんの川柳。
このみっつに共通しているものって、〈あたし/ぼくは知ってる〉ってことなんじゃないかとおもうんです。
雪舟さんの詩には「あたしは知らない」と語られてはいるんです。
語られてはいるんだけれども、そういうかたちで「〈あたしは知っている〉んです。
「あなたとあなたの恋人しか知らない」ことも知っている。
「あなたとあなたの恋人」が知っている以上のことをおそらく「あたし」は知っている。
その意味では、だれもまだ口にしてないクリームパンを、だれもまだであったことのない天使に、たべて/あっている。
でも、その〈知〉のありようが、いったい〈どこ〉にゆくのって話だとおもうんです。この詩の切なさは。
知るっていうことは、かならずしもいいことではなくて、知ったことによって孤独になったり、おもいがけない場所にはまってしまったりする。
穂村さんの短歌も、この過剰な関係性をしっている、把握しているのはおそらく語り手だけだとおもうんですよ。
その意味で、この語り手こそが関係的に死んでいるんじゃないかとおもうんです。ひとり、として。
紫乙さんの句でも、いま・この現状を認識できているのはおそらく語り手だけなんですね。「彼」は現状を把握していない、だからまた「盗って」くるかもしれない。現状を把握していないというのは語り手との関係性を把握できていないということです。語り手がこの出来事を川柳としてことばにする以上、この関係にはなんらかのノイズがある。でも「彼」はきがついていない。〈わたし〉だけが気がついている。
知っていることは、圧倒的な関係のなかで、ひとりになることです。
でもそれでもその〈ひとり〉をひきうけねばならないときに、暴力的におもいがけなくあらわれるのが、〈詩〉のようにもおもうんです。
電池が倒れたときこうやって時が解決していくのだと思った 美欧
日なたにおかれるとたちまち腐るという
そのクリームパンを
あたしは天使とおもった
そのクリームパンを
あたしは食べてない
売っている店は
あなたとあなたの恋人しか知らない
あたしは知らない 雪舟えま
恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の死 穂村弘
お店から盗って来た本くれる彼 竹井紫乙
【わたしを知らない(わたしは知ってる)】
雪舟さんの詩、穂村さんの短歌、紫乙さんの川柳。
このみっつに共通しているものって、〈あたし/ぼくは知ってる〉ってことなんじゃないかとおもうんです。
雪舟さんの詩には「あたしは知らない」と語られてはいるんです。
語られてはいるんだけれども、そういうかたちで「〈あたしは知っている〉んです。
「あなたとあなたの恋人しか知らない」ことも知っている。
「あなたとあなたの恋人」が知っている以上のことをおそらく「あたし」は知っている。
その意味では、だれもまだ口にしてないクリームパンを、だれもまだであったことのない天使に、たべて/あっている。
でも、その〈知〉のありようが、いったい〈どこ〉にゆくのって話だとおもうんです。この詩の切なさは。
知るっていうことは、かならずしもいいことではなくて、知ったことによって孤独になったり、おもいがけない場所にはまってしまったりする。
穂村さんの短歌も、この過剰な関係性をしっている、把握しているのはおそらく語り手だけだとおもうんですよ。
その意味で、この語り手こそが関係的に死んでいるんじゃないかとおもうんです。ひとり、として。
紫乙さんの句でも、いま・この現状を認識できているのはおそらく語り手だけなんですね。「彼」は現状を把握していない、だからまた「盗って」くるかもしれない。現状を把握していないというのは語り手との関係性を把握できていないということです。語り手がこの出来事を川柳としてことばにする以上、この関係にはなんらかのノイズがある。でも「彼」はきがついていない。〈わたし〉だけが気がついている。
知っていることは、圧倒的な関係のなかで、ひとりになることです。
でもそれでもその〈ひとり〉をひきうけねばならないときに、暴力的におもいがけなくあらわれるのが、〈詩〉のようにもおもうんです。
電池が倒れたときこうやって時が解決していくのだと思った 美欧
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