【こわい川柳 第十四話】いま君と椅子のかたちになっている 徳永政二
- 2015/06/08
- 18:27
いま君と椅子のかたちになっている 徳永政二
【もうひとり、くる。】
この「椅子のかたち」を《どう》とるかで、ふたりが椅子となり一体化するメタファーである椅子としての〈恋する川柳〉にもなるし、江戸川乱歩の人間椅子的な〈こわい川柳〉にもなるさまざまな読みのベクトルを乱反射する意味で〈こわい〉句です。
でもですね、たとえば、こどもをだっこしている、猫を抱いている、といったごく一般のナチュラルな〈写生句〉と読んでもいいんです。そういうことも、あるわけです。
つまりこの句が問うているのは、〈あなたは、あなたの君とどう座りたいんですか、椅子になりたいんですか〉という、〈このわたしの人間椅子〉が問われているようにおもうんですね。
ただおもしろいのは、「椅子」という例えを語り手が選んだことだとおもうんですね。
「椅子」っていうのは、それそのもので意味があるものではなくて、それが〈使われて〉はじめて役立つものなんです。
つまり、ここにはですね、たとえ〈わたし〉と〈きみ〉が「椅子」になったとしても〈第三者〉が腰掛けるためにやってくる〈緊張感〉があるとおもうんですよ。
そもそも基本的に〈恋愛〉や〈恐怖〉というのは〈第三者〉がいてはじめて成立しています。あのひとがあのひとのことを好きならますます好きになるし、わたしの見えない知らないだれかがわたしに明らかにアクセスしてきていればそれは恐怖になるわけです。
だから「椅子」というメタファーを採用したことによって、〈外部〉のにんげんも引き寄せてしまう。そういった意味で、〈こわい句〉だなあともおもいます。
ちなみに〈恋愛〉と〈恐怖〉を融合化させて、そしてさらにそれを〈写生〉的にナチュラルな日常事として描いたのが江戸川乱歩の「人間椅子」です。
ミステリーというのは、非日常の日常への回収なんです。逆に、幻想小説は日常の非日常への回帰です(ちなみにファンタジーは日常=非日常という等価です)。
そしてこの非日常→日常、日常→非日常、日常=非日常という三つの公式をすべて組み合わせたのが実は「人間椅子」なのではないかとおもうのです。
椅子の中の恋! それがまあ、どんなに不可思議な、陶酔的な魅力を持つか、実際に椅子の中へはいってみた人でなくては、わかるものではありません。それは、ただ、触覚と、聴覚と、そして僅かの嗅覚のみの恋でございます。暗やみの世界の恋でございます。 江戸川乱歩「人間椅子」
【もうひとり、くる。】
この「椅子のかたち」を《どう》とるかで、ふたりが椅子となり一体化するメタファーである椅子としての〈恋する川柳〉にもなるし、江戸川乱歩の人間椅子的な〈こわい川柳〉にもなるさまざまな読みのベクトルを乱反射する意味で〈こわい〉句です。
でもですね、たとえば、こどもをだっこしている、猫を抱いている、といったごく一般のナチュラルな〈写生句〉と読んでもいいんです。そういうことも、あるわけです。
つまりこの句が問うているのは、〈あなたは、あなたの君とどう座りたいんですか、椅子になりたいんですか〉という、〈このわたしの人間椅子〉が問われているようにおもうんですね。
ただおもしろいのは、「椅子」という例えを語り手が選んだことだとおもうんですね。
「椅子」っていうのは、それそのもので意味があるものではなくて、それが〈使われて〉はじめて役立つものなんです。
つまり、ここにはですね、たとえ〈わたし〉と〈きみ〉が「椅子」になったとしても〈第三者〉が腰掛けるためにやってくる〈緊張感〉があるとおもうんですよ。
そもそも基本的に〈恋愛〉や〈恐怖〉というのは〈第三者〉がいてはじめて成立しています。あのひとがあのひとのことを好きならますます好きになるし、わたしの見えない知らないだれかがわたしに明らかにアクセスしてきていればそれは恐怖になるわけです。
だから「椅子」というメタファーを採用したことによって、〈外部〉のにんげんも引き寄せてしまう。そういった意味で、〈こわい句〉だなあともおもいます。
ちなみに〈恋愛〉と〈恐怖〉を融合化させて、そしてさらにそれを〈写生〉的にナチュラルな日常事として描いたのが江戸川乱歩の「人間椅子」です。
ミステリーというのは、非日常の日常への回収なんです。逆に、幻想小説は日常の非日常への回帰です(ちなみにファンタジーは日常=非日常という等価です)。
そしてこの非日常→日常、日常→非日常、日常=非日常という三つの公式をすべて組み合わせたのが実は「人間椅子」なのではないかとおもうのです。
椅子の中の恋! それがまあ、どんなに不可思議な、陶酔的な魅力を持つか、実際に椅子の中へはいってみた人でなくては、わかるものではありません。それは、ただ、触覚と、聴覚と、そして僅かの嗅覚のみの恋でございます。暗やみの世界の恋でございます。 江戸川乱歩「人間椅子」
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