【あとがき】高橋順子『時の雨』のあとがき
- 2015/06/10
- 21:11
晩い結婚の二年四ヶ月後、連れ合いが強迫神経症を発病しました。原因はさまざまなことが考えられましたが、四六時中側にいる私という存在を、その一つの目から外すわけにはいかないでしょう。ものに怯える家人は、私に対してもまた怯えたのでした。私たちは自由に息をすることができなくなり、緊張の日々を過ごしました。
連れ合いの書く小説には髪の毛一すじの狂気が宿っていることに私は無意識であったわけではありません。それは、文学だと思っていたのです。生活とは別次元のものだ、と。
ところが或る日、文学が生活に侵入してきてしまった。日常が非日常の霧におおわれてしまった、ともいえます。そのとき、人はどうするか──。
生活を強引に文学にしてしまうこと。自分を全力で虚の存在と化し、文学たらしめること。
高橋順子「あとがき」『時の雨』
連れ合いの書く小説には髪の毛一すじの狂気が宿っていることに私は無意識であったわけではありません。それは、文学だと思っていたのです。生活とは別次元のものだ、と。
ところが或る日、文学が生活に侵入してきてしまった。日常が非日常の霧におおわれてしまった、ともいえます。そのとき、人はどうするか──。
生活を強引に文学にしてしまうこと。自分を全力で虚の存在と化し、文学たらしめること。
高橋順子「あとがき」『時の雨』
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