【感想】風俗店を貫くエレベーターの寒 北大路翼
- 2015/06/18
- 12:46
風俗店を貫くエレベーターの寒 北大路翼
【松尾芭蕉のいる歌舞伎町】
北大路さんの句集『天使の涎』からの一句です。
北大路さんの句集を読んでいてすぐにはっと気がつくのは、俳句とは〈空間〉を用意することにあるのではないか、ということです。
たとえば、掲句。
風俗店を貫くエレベーターの寒 北大路翼
「風俗店」そのものを詠むというよりは、「風俗店」がひしめきあいつつもそれがエレベーターでひとつながりになっている〈空間〉を提示することで、「風俗店」そのものではなく、「風俗店」をめぐる、あるいは「風俗店」そのものを成立させている〈空間〉の状況がたちあがってきます。
そこにあるのは、「風俗店」というのはこういうところなんだ、こんなところもあるんだ、という〈風俗店〉を語る欲望の回路ではなく、あたかも「風俗店」を芭蕉的〈古池〉のように〈空間〉として提示する〈風景〉なのではないかとおもうんですね。
古池や蛙飛び込む水の音 松尾芭蕉
ここで芭蕉は「古池」を蛙のダイヴと聴覚音としての水の音と連動させながら、ダイナミクスとしての古池空間を提示しているようにおもうのですが、この力学を駆動させるかえるのジャンプが、北大路さんの句では「エレベーター」になっているとおもうんです。で、「寒」は触覚です。
たとえばほかにもこんな〈風俗店〉をめぐる〈空間〉の句があります。
立春のマッサージ店増えに増え 北大路翼
暖房のランパブに色氾濫す 〃
それからこんなふうな〈混浴〉としての「古池」からの〈空間〉のたちあげかたもあるかもしれません。
乳輪のぼんやりとして水温む 北大路翼
〈風俗〉はなんデアルか、を語るのではなく、その〈なんデアル〉をとりまく〈空間〉を提示すること。
ここにひとつの〈風俗〉と〈俳句〉をめぐる〈空間提示〉のありかたがしめされているのではないかとおもうのです。
町に立つホスト同士の距離うらら 北大路翼
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