【お知らせ】「【なんにもしない句を読む】できればそうせずにすめばありがたいのですがー筑紫磐井・宮本佳世乃・バートルビー」『週刊俳句 第426号』
- 2015/06/22
- 12:15
『週刊俳句 第426号』にて「【なんにもしない句を読む】できればそうせずにすめばありがたいのですがー筑紫磐井・宮本佳世乃・バートルビー」という文章を載せていただきました。『週刊俳句』編集部にお礼申し上げます。ありがとうございました!
お時間のあるときにお読みくだされば、さいわいです。
この文章、筑紫磐井さんと宮本佳世乃さんとハーマン・メルヴィルのバートルビーをめぐって書かれているんですが、じつはこんな句をかんがえてみることからはじめてみたんです。
今走つてゐること夕立来さうなこと 上田信治
この上田さんの句にはじめてであってから、ほんとうによくこの句についてたびたびかんがえるんです。
たとえば、松尾芭蕉が走っていたら、走りながら句をつくっていたらどうだったのか、正岡子規が駆け抜けながら、りょうてをあらんかぎりにふりしぼりながら俳句を詠んでいたらどうだったのか。
そんなこともかんがえるし、またわたしはときどき昼休みにカフェで句会をやっている方々をたまたま拝見する機会がたびたびあったのですが、その方たちをみていると、ぜったいに〈走らない〉とおもったんですね。句会や吟行ではだれも〈走らないんじゃないか〉と。
だから、いまだに上田さんの句は、ふしぎです。
なぜ、走っているのか。
かんがえてみると、太宰治も「走れメロス」はあれは語り手とメロスが別の主体だから、走れるんです。
でも、上田さんの句は、語り手が走っているらしい。「今」といっているから。
そこからうらがえって、俳句とは〈なんにもしない空間〉なんじゃないかとかんがえはじめました。
俳句は、なんにもしないことがむしろしていることになるのだと。
そこから、筑紫さんとかよのさんとバートルビーがおなじ空間でなにもしていないことをかんがえてみました。あんまりわたしもなにかはしないようにしました。だから、けっきょく、なにもしえなかったのかもしれないようなきもしていますがもしそうなっていなければありがたいのですが。
ハーマン・メルヴィルの物語に登場する代書人バートルビー。バートルビーは読書どころか、新聞を開いているところさえ人に見られたことがなかった。彼は屏風の向こうにある、ウォール街のレンガ塀に面した青白い窓の前に何時間も立ったまま外をじっと見つめている。ほかの人のように、ビールや紅茶、コーヒーを口にすることもない。事務所で暮らしているので、決して外出することはないし、日曜日も事務所で過ごしている。自分が誰で、どこからきたのかについて何ひとつしゃべらないし、この世界に親戚のものがいるかどうかさえも打ち明けようとしない。どこで生まれたんですかと尋ねられたり、仕事を頼まれたり、身の上話をしてほしいと言われると、いつもこう答える。
「せずにすめばありがたいのですが」
エンリーケ・ビラ=マタス『バートルビーと仲間たち』
お時間のあるときにお読みくだされば、さいわいです。
この文章、筑紫磐井さんと宮本佳世乃さんとハーマン・メルヴィルのバートルビーをめぐって書かれているんですが、じつはこんな句をかんがえてみることからはじめてみたんです。
今走つてゐること夕立来さうなこと 上田信治
この上田さんの句にはじめてであってから、ほんとうによくこの句についてたびたびかんがえるんです。
たとえば、松尾芭蕉が走っていたら、走りながら句をつくっていたらどうだったのか、正岡子規が駆け抜けながら、りょうてをあらんかぎりにふりしぼりながら俳句を詠んでいたらどうだったのか。
そんなこともかんがえるし、またわたしはときどき昼休みにカフェで句会をやっている方々をたまたま拝見する機会がたびたびあったのですが、その方たちをみていると、ぜったいに〈走らない〉とおもったんですね。句会や吟行ではだれも〈走らないんじゃないか〉と。
だから、いまだに上田さんの句は、ふしぎです。
なぜ、走っているのか。
かんがえてみると、太宰治も「走れメロス」はあれは語り手とメロスが別の主体だから、走れるんです。
でも、上田さんの句は、語り手が走っているらしい。「今」といっているから。
そこからうらがえって、俳句とは〈なんにもしない空間〉なんじゃないかとかんがえはじめました。
俳句は、なんにもしないことがむしろしていることになるのだと。
そこから、筑紫さんとかよのさんとバートルビーがおなじ空間でなにもしていないことをかんがえてみました。あんまりわたしもなにかはしないようにしました。だから、けっきょく、なにもしえなかったのかもしれないようなきもしていますがもしそうなっていなければありがたいのですが。
ハーマン・メルヴィルの物語に登場する代書人バートルビー。バートルビーは読書どころか、新聞を開いているところさえ人に見られたことがなかった。彼は屏風の向こうにある、ウォール街のレンガ塀に面した青白い窓の前に何時間も立ったまま外をじっと見つめている。ほかの人のように、ビールや紅茶、コーヒーを口にすることもない。事務所で暮らしているので、決して外出することはないし、日曜日も事務所で過ごしている。自分が誰で、どこからきたのかについて何ひとつしゃべらないし、この世界に親戚のものがいるかどうかさえも打ち明けようとしない。どこで生まれたんですかと尋ねられたり、仕事を頼まれたり、身の上話をしてほしいと言われると、いつもこう答える。
「せずにすめばありがたいのですが」
エンリーケ・ビラ=マタス『バートルビーと仲間たち』
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