【短歌】花にもね…(『抒情文芸 第151号』2014年7月 佳作・小島ゆかり 選)
- 2014/06/04
- 15:05
花にもね幽霊がいてそこここにただ咲いている明滅してる 柳本々々
(『抒情文芸 第151号』2014年7月 佳作・小島ゆかり 選)
【幽霊に/で/を、なる/ある/すること】
以前、霊感の強いひとに、幽霊もつまずいて転んだりすることがあるんでしょうか、ときいたら、ああときどきは転んでますよね、といったのでびっくりしたおぼえがある。そのときわたしは、死後になっても、まだ、おっちょこちょいに気遣わなければならないのか、とおののいた。
わたしは、おっちょこょちょいである。あまりにもおっちょこちょいなので、もうすでに「おっちょこょちょい」と「ょ」を余分にいれてしまうくらい、おっちょこょちょいである。
だから、よく、けつまずく。世界のそこかしこで、まろび、転倒し、しりもちつき、つんのめり、つっぷす。なんにもないみちでも、じぶんのめまいによって、ダイナミックにあたまからころんでいったりする。ころぶときのわたしはダイナミックだと、ひとはいう。わたしはころぶとき、はじめて、パワフルになる。だから、すきなひとのまえでは、たくさんころぼうとおもっているのだが、なかなかそんな機会がこない。
とりあえず、幽霊も、しんでさえも、まだ、転んだりするのだ。幽霊になっても、なやむことはきっとたくさんあるのだ、とそのはなしをきいてわたしは思った。幽霊になっても、TSUTAYAの返却日がきになったりするかもしれないし、ケーキのフィルムがうまくはずせなくて、すきなひとのまえで、悲惨なくらいぐずぐずの状態でミルクレープをたべるかもしれない。
心霊になっても消極的だったらどうしようと心配である。心霊写真にうつれるひとは、みな、まえむきなひとたちなのではないだろうか。わたしはシャイだから、しんでも、心霊写真にうつれないきがする。
ところで、花といえば、リチャード・ブローティガンがこんなことをいっている。
電報をもらってどれほど嬉しかったか、どれほど深く心にとどいたことか、ああいうことをもっと書いてちょうだい、と彼女はいった。とても心を動かされたの、とくりかえした。
わたしが電報に書いたのは──。
言葉はなにもないところに咲く花々。
あなたを愛している。
ブローティガン『不運な女』
ときどき、ことばこそが、幽霊なんじゃないかなとかんがえることがある。
ことばは、明滅し、あるひとには感じることができ、あるひとには素通りされる。
わたしたちはそれでもいっぽんいっぽんいきているかぎりは、ことばとしての花の幽霊をうえつづける。
いつかだれかが、あなたの花壇(幽霊)のまえで、たちどまるかもしれない。
いっせいに、ことばが、はなが、ゆうれいが、ざわめきたって、めいめつする。
なんの本を読んでるんですか、ときかれたハムレットはつぎのように答えている。「言葉、言葉、言葉」。
でも、ブローティガンを読んでいたなら、ハムレットもきっとこう答えたはずだ。
「花、花、花」
(『抒情文芸 第151号』2014年7月 佳作・小島ゆかり 選)
【幽霊に/で/を、なる/ある/すること】
以前、霊感の強いひとに、幽霊もつまずいて転んだりすることがあるんでしょうか、ときいたら、ああときどきは転んでますよね、といったのでびっくりしたおぼえがある。そのときわたしは、死後になっても、まだ、おっちょこちょいに気遣わなければならないのか、とおののいた。
わたしは、おっちょこょちょいである。あまりにもおっちょこちょいなので、もうすでに「おっちょこょちょい」と「ょ」を余分にいれてしまうくらい、おっちょこょちょいである。
だから、よく、けつまずく。世界のそこかしこで、まろび、転倒し、しりもちつき、つんのめり、つっぷす。なんにもないみちでも、じぶんのめまいによって、ダイナミックにあたまからころんでいったりする。ころぶときのわたしはダイナミックだと、ひとはいう。わたしはころぶとき、はじめて、パワフルになる。だから、すきなひとのまえでは、たくさんころぼうとおもっているのだが、なかなかそんな機会がこない。
とりあえず、幽霊も、しんでさえも、まだ、転んだりするのだ。幽霊になっても、なやむことはきっとたくさんあるのだ、とそのはなしをきいてわたしは思った。幽霊になっても、TSUTAYAの返却日がきになったりするかもしれないし、ケーキのフィルムがうまくはずせなくて、すきなひとのまえで、悲惨なくらいぐずぐずの状態でミルクレープをたべるかもしれない。
心霊になっても消極的だったらどうしようと心配である。心霊写真にうつれるひとは、みな、まえむきなひとたちなのではないだろうか。わたしはシャイだから、しんでも、心霊写真にうつれないきがする。
ところで、花といえば、リチャード・ブローティガンがこんなことをいっている。
電報をもらってどれほど嬉しかったか、どれほど深く心にとどいたことか、ああいうことをもっと書いてちょうだい、と彼女はいった。とても心を動かされたの、とくりかえした。
わたしが電報に書いたのは──。
言葉はなにもないところに咲く花々。
あなたを愛している。
ブローティガン『不運な女』
ときどき、ことばこそが、幽霊なんじゃないかなとかんがえることがある。
ことばは、明滅し、あるひとには感じることができ、あるひとには素通りされる。
わたしたちはそれでもいっぽんいっぽんいきているかぎりは、ことばとしての花の幽霊をうえつづける。
いつかだれかが、あなたの花壇(幽霊)のまえで、たちどまるかもしれない。
いっせいに、ことばが、はなが、ゆうれいが、ざわめきたって、めいめつする。
なんの本を読んでるんですか、ときかれたハムレットはつぎのように答えている。「言葉、言葉、言葉」。
でも、ブローティガンを読んでいたなら、ハムレットもきっとこう答えたはずだ。
「花、花、花」
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