【こわい川柳 第五十三話】眠れないすっかり白に包囲され 浮千草
- 2015/06/30
- 12:15
眠れないすっかり白に包囲され 浮千草
【しろい、は、こわい。】
千草さんの句集『夢をみるところ』からの一句です。
さきほどの紫乙さんの「白いシャツ」の句もそうだったんですが、川柳において〈白〉ってちょっとこわいんですよね。
でも、かんがえてみると、たとえばですね、白い幽霊はいても、黒い幽霊ってあんまりいないとおもうんですよね(ちなみにその黒い幽霊のギャップのこわさを杉浦日向子さんが漫画『百物語』で描かれていました。黒い幽霊は黒い幽霊でこわい)。
で、なんで黒い幽霊ってだめなんだろうってかんがえると、物質的になってしまうからなんじゃないかとおもうんですね。つまり、向こうが透けない、透過性がないということは、〈モノ〉なんです。『バスカヴィル家の犬』の〈犬〉みたいに。
あとわたしたちも〈黒い〉んですね。夜のなかで動いているわたしたちは〈黒い〉です。影、としても。
夜のなかで逆に白いひとがいると、ぶきみです。世界の法則をさかなでしているので。
そんなところに〈白〉の恐怖もあるのかなあとおもったりするんですね(ただこういう色の力学というのは、とても政治的なもので、たとえば漱石『吾輩は猫である』では〈白(猫)〉が〈黒(猫)〉の優位に立つという明らかな色の植民地主義的階層化があります)。
いろいろとご意見をきき白を塗る 笠川嘉一
白の川柳といえば、笠川さんにこのような白の句もあるんですが、この「白」もすこしこわいんですね。「白を塗」っているのはわかるんだけれども、〈なぜ〉塗っているのか、〈なんのために〉塗っているのか、〈なにに〉塗っているのか、そんなふうに「ご意見」で色を決めてしまっていいのか、語り手がほんとうに塗りたかったものはなんだったのか、いろいろかんがえてみるとこわくなってくるおもしろい句だとおもうんです。
千草さんの句も、おなじこわさがあります。
「すっかり白に包囲されて」ととても具体的な臨場感があるんですが、「白」だけが抽象性をたもったままで、いったいどんな「白」なのか、なんのための「白」なのか、どういった「白」なのかがわからない。
それが、ぎゃくに、こわくておもしろい。
どうもこういうことらしいんです。
川柳のなかでは具体的な臨場感とともに、「白」だけが不可解な抽象性を保っている。
だから、〈こわい〉と。
ちなみに、白は、ずるさの白でもあります。
漱石『こころ』で先生は青年に妻にだけはなにもしらせないでくれ、うちあけないでくれ、純〈白〉のままにしておいてあげてくれ、といいますが、これはある意味で、先生と青年が共犯関係になり親愛関係を結託しながら、妻はことばを交わしえない、対話しえない〈異人〉としてうっちゃることです。
他者にさえしようとしないまま、都合のいい〈白さ〉のなかにうっちゃったまま、かってに死んでいく先生。
白は、こわくてずるい色かもしれない。
原稿用紙250枚にも及ぶたいへんロングな最後の手紙を青年に〈二つ折り〉で〈郵送〉して、妻にはなにも告げずに死んで/逃げていく先生。指紋、たくさん。
部屋中を指紋だらけにして逃げる 浮千草
【しろい、は、こわい。】
千草さんの句集『夢をみるところ』からの一句です。
さきほどの紫乙さんの「白いシャツ」の句もそうだったんですが、川柳において〈白〉ってちょっとこわいんですよね。
でも、かんがえてみると、たとえばですね、白い幽霊はいても、黒い幽霊ってあんまりいないとおもうんですよね(ちなみにその黒い幽霊のギャップのこわさを杉浦日向子さんが漫画『百物語』で描かれていました。黒い幽霊は黒い幽霊でこわい)。
で、なんで黒い幽霊ってだめなんだろうってかんがえると、物質的になってしまうからなんじゃないかとおもうんですね。つまり、向こうが透けない、透過性がないということは、〈モノ〉なんです。『バスカヴィル家の犬』の〈犬〉みたいに。
あとわたしたちも〈黒い〉んですね。夜のなかで動いているわたしたちは〈黒い〉です。影、としても。
夜のなかで逆に白いひとがいると、ぶきみです。世界の法則をさかなでしているので。
そんなところに〈白〉の恐怖もあるのかなあとおもったりするんですね(ただこういう色の力学というのは、とても政治的なもので、たとえば漱石『吾輩は猫である』では〈白(猫)〉が〈黒(猫)〉の優位に立つという明らかな色の植民地主義的階層化があります)。
いろいろとご意見をきき白を塗る 笠川嘉一
白の川柳といえば、笠川さんにこのような白の句もあるんですが、この「白」もすこしこわいんですね。「白を塗」っているのはわかるんだけれども、〈なぜ〉塗っているのか、〈なんのために〉塗っているのか、〈なにに〉塗っているのか、そんなふうに「ご意見」で色を決めてしまっていいのか、語り手がほんとうに塗りたかったものはなんだったのか、いろいろかんがえてみるとこわくなってくるおもしろい句だとおもうんです。
千草さんの句も、おなじこわさがあります。
「すっかり白に包囲されて」ととても具体的な臨場感があるんですが、「白」だけが抽象性をたもったままで、いったいどんな「白」なのか、なんのための「白」なのか、どういった「白」なのかがわからない。
それが、ぎゃくに、こわくておもしろい。
どうもこういうことらしいんです。
川柳のなかでは具体的な臨場感とともに、「白」だけが不可解な抽象性を保っている。
だから、〈こわい〉と。
ちなみに、白は、ずるさの白でもあります。
漱石『こころ』で先生は青年に妻にだけはなにもしらせないでくれ、うちあけないでくれ、純〈白〉のままにしておいてあげてくれ、といいますが、これはある意味で、先生と青年が共犯関係になり親愛関係を結託しながら、妻はことばを交わしえない、対話しえない〈異人〉としてうっちゃることです。
他者にさえしようとしないまま、都合のいい〈白さ〉のなかにうっちゃったまま、かってに死んでいく先生。
白は、こわくてずるい色かもしれない。
原稿用紙250枚にも及ぶたいへんロングな最後の手紙を青年に〈二つ折り〉で〈郵送〉して、妻にはなにも告げずに死んで/逃げていく先生。指紋、たくさん。
部屋中を指紋だらけにして逃げる 浮千草
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