【こわい川柳 第五十四話】仏蘭西の熟成しきった地図である 飯島章友
- 2015/06/30
- 12:45
仏蘭西の熟成しきった地図である 飯島章友
【腐るのだいすき、発酵するのもっとすき】
川柳の詩的技法のひとつに、〈無機物を有機物に置換してゆくところ〉があるんじゃないかとおもうんです。
つまりですね、すべてのモノ・コトに〈なまぐささ〉を与え、場合によっては〈腐る〉ことも可能な存在様式にしてしまう。
それがひとつの川柳のちからなのではないか。
なぜ、川柳がそこに価値観をみいだしたのかはわからないけれども、たとえば小池正博さんが川柳は〈蕩尽の文芸〉だ、〈消える文芸〉なんだ、とたしか書かれていました。じつはこのことばは川柳というのは、世界を腐食させ有限化するものなんだ、世界を蕩尽の形式として再組織化しなおすことなんだ、ということばといいかえることもできるのではないしょうか。
つまり、透明で抽象的な世界を、腐りうる、なまぐさい、ものものしいものとしてとらえかえしていくのが、川柳なのだと。
だから、世界も川柳も、いずれはきえていくのだと。
いや、きえていくのではなくて、形式として、存在様式として、〈きえていく形式〉であるということです。〈きえていく〉のと、〈きえていく形式〉は、まったくちがいます。そして、〈きえていく形式〉とは、なまもの、そのものです。なまもの性を維持しつづけるということです。
で、飯島さんの句です。
飯島さんの句のやはり「熟成」がポイントだとおもうんです。
「仏蘭西」が熟成しているのかもしれないし、「地図」
が熟成しきっているのかもしれない。そのどちらかかもしれない。それはわからないのだけれども、とりあえず〈熟成しきっ〉ていることはたしかです。何故なら、語り手が「熟成し《きった》」と熟成に〈時間の幅〉を与えているからです。
語り手は熟成のはじまりとおわりを見届けているのです。
フランスも地図も抽象的で、概念的なものです。でもそれが〈熟成〉されることによって変質していることはたしかです。そして変質するということは、まだこの先に、変質の可能性を有しているということです。消尽の、蕩尽の、きえる可能性をゆうしているということです。
わたし、もうひとつおもってるのが、川柳は熟成や腐食のほかに、〈発酵〉とういことばがだいすきなんです。
なんで、だろう。
ただ共通していることは、熟成・腐食・発酵は、〈時間の幅〉を有していることばだということです。川柳は、こうした〈時間の幅〉のあることばを発見してきた。そしてその〈時間の幅〉を世界に与え、世界を蕩尽しようとしている。
ちなみにわたしむかしからどういうわけか気になってしまうことばがあって、それはつまり〈あなた〉ということばなんですが、それがつまり川柳では、
ペットボトルの中で発酵するあなた 加藤久子
(『川柳杜人』246号・2015年6月)
【腐るのだいすき、発酵するのもっとすき】
川柳の詩的技法のひとつに、〈無機物を有機物に置換してゆくところ〉があるんじゃないかとおもうんです。
つまりですね、すべてのモノ・コトに〈なまぐささ〉を与え、場合によっては〈腐る〉ことも可能な存在様式にしてしまう。
それがひとつの川柳のちからなのではないか。
なぜ、川柳がそこに価値観をみいだしたのかはわからないけれども、たとえば小池正博さんが川柳は〈蕩尽の文芸〉だ、〈消える文芸〉なんだ、とたしか書かれていました。じつはこのことばは川柳というのは、世界を腐食させ有限化するものなんだ、世界を蕩尽の形式として再組織化しなおすことなんだ、ということばといいかえることもできるのではないしょうか。
つまり、透明で抽象的な世界を、腐りうる、なまぐさい、ものものしいものとしてとらえかえしていくのが、川柳なのだと。
だから、世界も川柳も、いずれはきえていくのだと。
いや、きえていくのではなくて、形式として、存在様式として、〈きえていく形式〉であるということです。〈きえていく〉のと、〈きえていく形式〉は、まったくちがいます。そして、〈きえていく形式〉とは、なまもの、そのものです。なまもの性を維持しつづけるということです。
で、飯島さんの句です。
飯島さんの句のやはり「熟成」がポイントだとおもうんです。
「仏蘭西」が熟成しているのかもしれないし、「地図」
が熟成しきっているのかもしれない。そのどちらかかもしれない。それはわからないのだけれども、とりあえず〈熟成しきっ〉ていることはたしかです。何故なら、語り手が「熟成し《きった》」と熟成に〈時間の幅〉を与えているからです。
語り手は熟成のはじまりとおわりを見届けているのです。
フランスも地図も抽象的で、概念的なものです。でもそれが〈熟成〉されることによって変質していることはたしかです。そして変質するということは、まだこの先に、変質の可能性を有しているということです。消尽の、蕩尽の、きえる可能性をゆうしているということです。
わたし、もうひとつおもってるのが、川柳は熟成や腐食のほかに、〈発酵〉とういことばがだいすきなんです。
なんで、だろう。
ただ共通していることは、熟成・腐食・発酵は、〈時間の幅〉を有していることばだということです。川柳は、こうした〈時間の幅〉のあることばを発見してきた。そしてその〈時間の幅〉を世界に与え、世界を蕩尽しようとしている。
ちなみにわたしむかしからどういうわけか気になってしまうことばがあって、それはつまり〈あなた〉ということばなんですが、それがつまり川柳では、
ペットボトルの中で発酵するあなた 加藤久子
(『川柳杜人』246号・2015年6月)
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