【こわい川柳 第六十一話】空席にくうせきさんがうづくまる 佐藤みさ子
- 2015/07/16
- 19:56
空席にくうせきさんがうづくまる 佐藤みさ子
【どこにもたどりつけないくうせきさん】
このみさ子さんの句は、5→7→5と定型の段階をふみながら、前提がつぎつぎとくずされていくのが〈不穏〉なんじゃないかとおもうんです。
まず「空席に」という5音が、「くうせきさんが」という7音で、満たされる展開が起きます。「空席」とはこれから誰かが占める場所なはずなのに、すでに「くうせきさんが」「空席に」は存在しているということです。
このことによって「空席」という場所性がまず崩されています。このみさ子さんの川柳空間においては、わたしたちがかんがえている「空席」の概念とは違うということです。「空席」には「くうせきさん」がいる。
で、そこからこんどはさらに下5がそれまでの57をくつがえしていきます。
「空席」なんですから、「くうせきさん」は腰掛けたりすわったりすればいいのですが、そうではなくて、くうせきさんは空席に「うづくまる」。うずくまることによってそもそもの席のありようが崩されています。ほんとうはそこは床でもいいはずです。でも《わざわざ》くうせきさんが空席にうずくまっているところに不穏なこわさを感じるわけです。
つまりこの句では徹底して、空席の空いている〈空(くう)〉も座るための〈席(せき)〉も機能していないわけです。
そしてその機能のしがたさこそが「くうせきさん」のありかたなのではないかとおもうのです。「くうせきさん」とは、存在の不在、ではなく、機能の不在なのです。もちろんそこには「うづくまる」という表記の機能の失調も関連づけられていくはずです。
各空席にはくうせきさんがそれぞれにめいめいのやりかたでいるはずです。わたしもさっき帰りの電車で確認しました。
でも、うずくまっている。
くうせきさんは席にきちんと座れないかなしみをかかえている。しかも正しい「うずくまる」からさえも、〈排除〉されている。
くうせきさんとは、じゃあ、いったい《だれ》なのか。
その場所にいるのに、その場所にさえたどりつけていないくうせきさん。
とばなければならないからとびこんだ。
ゆき場のないゆき場所。
(崖はいつも女をまっさかさまにする)
それがねえ
まだ一人も海にとどかないのだ。
十五年もたつというのに
どうしたんだろう。
あの、
女。
石垣りん「崖」
【どこにもたどりつけないくうせきさん】
このみさ子さんの句は、5→7→5と定型の段階をふみながら、前提がつぎつぎとくずされていくのが〈不穏〉なんじゃないかとおもうんです。
まず「空席に」という5音が、「くうせきさんが」という7音で、満たされる展開が起きます。「空席」とはこれから誰かが占める場所なはずなのに、すでに「くうせきさんが」「空席に」は存在しているということです。
このことによって「空席」という場所性がまず崩されています。このみさ子さんの川柳空間においては、わたしたちがかんがえている「空席」の概念とは違うということです。「空席」には「くうせきさん」がいる。
で、そこからこんどはさらに下5がそれまでの57をくつがえしていきます。
「空席」なんですから、「くうせきさん」は腰掛けたりすわったりすればいいのですが、そうではなくて、くうせきさんは空席に「うづくまる」。うずくまることによってそもそもの席のありようが崩されています。ほんとうはそこは床でもいいはずです。でも《わざわざ》くうせきさんが空席にうずくまっているところに不穏なこわさを感じるわけです。
つまりこの句では徹底して、空席の空いている〈空(くう)〉も座るための〈席(せき)〉も機能していないわけです。
そしてその機能のしがたさこそが「くうせきさん」のありかたなのではないかとおもうのです。「くうせきさん」とは、存在の不在、ではなく、機能の不在なのです。もちろんそこには「うづくまる」という表記の機能の失調も関連づけられていくはずです。
各空席にはくうせきさんがそれぞれにめいめいのやりかたでいるはずです。わたしもさっき帰りの電車で確認しました。
でも、うずくまっている。
くうせきさんは席にきちんと座れないかなしみをかかえている。しかも正しい「うずくまる」からさえも、〈排除〉されている。
くうせきさんとは、じゃあ、いったい《だれ》なのか。
その場所にいるのに、その場所にさえたどりつけていないくうせきさん。
とばなければならないからとびこんだ。
ゆき場のないゆき場所。
(崖はいつも女をまっさかさまにする)
それがねえ
まだ一人も海にとどかないのだ。
十五年もたつというのに
どうしたんだろう。
あの、
女。
石垣りん「崖」
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