【こわい川柳 第六十四話】私だけ蚊に刺されないので不安 丸山進
- 2015/07/19
- 00:08
私だけ蚊に刺されないので不安 丸山進
【個人的なことは政治的なこと】
ちょっとこわい句ですよね。あ、じぶん、やばいな、と。
蚊にさされすぎてやばいな、じゃなくて、蚊にさされなくてやばいな、と感じるのがこわくてすてきです。
で、この句はとてもすてきな屈折もかかえているとおもうんです。
まずひとつこの句からわかるのは、語り手が、じぶん以外は蚊にちゃんと刺されていることを知っているということです。
〈わたし〉のまわりの状況を正確に認識しているからこそ、「私だけ」というたしかな発話ができる。
つまり語り手はこれだけじぶんのぐるりをよく観察し、ぐるりに順応できるはずの人物なのに「蚊」という外的要因によってそのぐるりから排除されようとしている。
環境に敏感だからこそ、その環境によって排除される。
実は丸山進さんの句のパワーのひとつにこうした〈なんでもない日常事〉が政治的な境界線を引いてしまうしゅんかんを描いている、というのがあるんじゃないかとおもうんです。
「蚊」っていう事態はなんでもないことです。
ところが「蚊」という外的要因が「刺す/刺さない」とひとを区別/差別しだしたときに、そこには〈わたしたち〉と〈あなたたち〉という境界線がひかれ、共同体が分断し、〈不穏な不安〉がうまれてくる。
これはもしかすると政治的な境界線の不穏さを描いてもいるんじゃないかとおもうし、そうした境界線はなにも大々的なマニフェストによってなされるわけではなくて、日常のほんとうにちょっとしたことからわたしたちとかれらに分割されてしまうことがあるんじゃないか。そしてその「不安」がいっきに暴力に昇華されるかもしれない〈不穏〉さもかかえこんでいるんじゃないかってきもするんです。
丸山さんの川柳にはいつもそうした小さな枠組みが大きな枠組みを同時にかかえこんでいることに意味のちからのひとつがあるようにおもって読んでいます。それは丸山さんが句集の「あとがき」にも書かれていたことなんですが、丸山さんが社会詠から現代川柳に移行されるときに、それら枠組みを折衷し、昇華されるかたちで新しい川柳の枠組みをつくられてきたからなんじゃないかともおもうのです。
丸山さんの川柳から教えてもらうのは、社会詠と詩(現代川柳)は決して分断してはいない、ということです。
エスカレーター天敵とすれ違う 丸山進
【個人的なことは政治的なこと】
ちょっとこわい句ですよね。あ、じぶん、やばいな、と。
蚊にさされすぎてやばいな、じゃなくて、蚊にさされなくてやばいな、と感じるのがこわくてすてきです。
で、この句はとてもすてきな屈折もかかえているとおもうんです。
まずひとつこの句からわかるのは、語り手が、じぶん以外は蚊にちゃんと刺されていることを知っているということです。
〈わたし〉のまわりの状況を正確に認識しているからこそ、「私だけ」というたしかな発話ができる。
つまり語り手はこれだけじぶんのぐるりをよく観察し、ぐるりに順応できるはずの人物なのに「蚊」という外的要因によってそのぐるりから排除されようとしている。
環境に敏感だからこそ、その環境によって排除される。
実は丸山進さんの句のパワーのひとつにこうした〈なんでもない日常事〉が政治的な境界線を引いてしまうしゅんかんを描いている、というのがあるんじゃないかとおもうんです。
「蚊」っていう事態はなんでもないことです。
ところが「蚊」という外的要因が「刺す/刺さない」とひとを区別/差別しだしたときに、そこには〈わたしたち〉と〈あなたたち〉という境界線がひかれ、共同体が分断し、〈不穏な不安〉がうまれてくる。
これはもしかすると政治的な境界線の不穏さを描いてもいるんじゃないかとおもうし、そうした境界線はなにも大々的なマニフェストによってなされるわけではなくて、日常のほんとうにちょっとしたことからわたしたちとかれらに分割されてしまうことがあるんじゃないか。そしてその「不安」がいっきに暴力に昇華されるかもしれない〈不穏〉さもかかえこんでいるんじゃないかってきもするんです。
丸山さんの川柳にはいつもそうした小さな枠組みが大きな枠組みを同時にかかえこんでいることに意味のちからのひとつがあるようにおもって読んでいます。それは丸山さんが句集の「あとがき」にも書かれていたことなんですが、丸山さんが社会詠から現代川柳に移行されるときに、それら枠組みを折衷し、昇華されるかたちで新しい川柳の枠組みをつくられてきたからなんじゃないかともおもうのです。
丸山さんの川柳から教えてもらうのは、社会詠と詩(現代川柳)は決して分断してはいない、ということです。
エスカレーター天敵とすれ違う 丸山進
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