【短歌】図書室で…(日経新聞・日経歌壇2015年7月19日・穂村弘 選)
- 2015/07/19
- 21:33
図書館ってふしぎな場所ですよね。
たとえば赤外線かなんかで図書館をみてみると、ひとびとが意味もなく寄り集まって、じっとしているわけです。
わたしが読書や本を知らない宇宙人なら、なんだろう、とおもうとおもうんですよ。
このひとたちはじっと寄り集まって、微動だにせず、みな、うつむいて、いったいなにをしているんだと。
どうしちゃったんだ、と。なぜみんな会話をしないんだ、こんなにいっぱいあつまって、なぜそんなにも孤独なんだと。
そこが、ふしぎなんですよ。いつも。
こんなにもむすうのひとがいるのに、だれひとりわらわず、会話もかわさず、孤立している空間。かたくなにじっとしている空間。
なんだろう、っておもうんです。としょかんって。
ちょっとやばいんじゃないかと。
だからときどきものすごいスピードで図書館のなかを駆け抜けたくなったりするわけです。プルーストとか抱えて。
でも、そんなことをしたら、とりおさえられるわけです。それはそれでやばいわけです。わたしがもし宇宙人だとしても、とりおさえられる。
わたしは、宇宙人なので、超能力的なものですこし抵抗して浮いたりもしているんだけれど、浮いたまま、とりおさえられてる。
そうして浮いたまま捕縛され、浮いたまま連行される。
どこへか?
館長のもとへ、です。
なにしろ、ここは図書館という館(やかた)なんです。
だからいちばんえらいひとは、館長だとおもうんですよ。
そうしてそこではじめてわたしは本というものを、読書というものを、おそわる。
館長は、いう。「図書館とは、しゅんかんをたいせつにする場所です。しゅんかんの理解が図書館なんです。しゅんかんが並んでるんです」と。
わたしは、いまだ浮きつつはあったのだけれども、そのしゅんかんに、いま、ふれようとしている。
図書室でいっかいもまださわられていない書物をさわるしゅんかん 柳本々々
(日経新聞・日経歌壇2015年7月19日・穂村弘 選)
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