【こわい川柳 第七十一話】まよなかにみんなぶらさがる-定金冬二-
- 2015/07/27
- 18:16
吊革に真夜中があるゆうらゆら 定金冬二
【吊革って、なんだろう】
川柳や短歌においてしばしば吊革を散見するんですが、吊革ってぶきみなものとして歌われているとおもうんです。
で、なんでだろうってかんがえたときに、まず吊革には、整然と並べられた〈秩序性〉があります。
たとえばわたしたちが電車に入ったときにわたしたちが位置を決めるというよりは、吊革がわたしたちの身体性を決めている。その点で、わたしたちよりもシステムが、全体性が優先している。
そうした全体主義の表徴としてひとつ(こうした鉄道の表象は漱石の『草枕』にも書いてあります)。
もうひとつは、〈吊る〉という言葉の隠喩性です。
手を通してそこにつかまるわけですし、天井から吊られているから吊革なわけだけれども、だんだんとわたしたちが〈吊られて〉いく状態になっていくのが吊革です。だからそこには潜在的に〈死〉のメタフォリカルな意味作用が生じてくる。
そもそも近代に鉄道が入ってきたときに大きく知覚変化したことの〈死〉の表象です。〈轢死〉というのはそれまでの〈死〉の知覚を変えるようなすさまじいインパクトがあった。そのこともやはり漱石が『三四郎』で描いています。
〈死〉の表徴としての吊革。
そしてさいごに〈ゆらゆら〉感です。
定金さんの句のあるとおり、ゆれているのが吊革です。吊革がゆれるのはそのゆれによってわたしたちが電車に乗っていてもバランスを保てる慣性を調節するのですが、ということは吊革とともにわたしたちも電車に乗りながらたえずゆらゆらしているわけです。
かんがえてみるとこの日常生活のなかで吊られながら長い時間、ゆらゆらしている空間ってないわけですよ。
いままでのことをまとめてみるなら、吊られながら長い時間、全体主義的に、みんなで、死を隠喩的に体現しながら、ゆらゆらしている空間って、おそらく、電車のなかだけなんですよ。
これはひとことでいうと、ぶきみです。
ぶきみだけれども、そういう感性をつくる場所がある意味近代にできた鉄道だった。
だからこの鉄道という空間は、ある意味で、徹底して、知覚の、身体の、ハードウェアの、環境工学の問題かもしれないのです。それが定金さんのいう吊革の「真夜中」というトポス(場所性)なのではないかとおもうのです。
だから、真夜中は、鉄道は、理解するか・しないかが問題にならないのです。ということは、
3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって 中澤系
【吊革って、なんだろう】
川柳や短歌においてしばしば吊革を散見するんですが、吊革ってぶきみなものとして歌われているとおもうんです。
で、なんでだろうってかんがえたときに、まず吊革には、整然と並べられた〈秩序性〉があります。
たとえばわたしたちが電車に入ったときにわたしたちが位置を決めるというよりは、吊革がわたしたちの身体性を決めている。その点で、わたしたちよりもシステムが、全体性が優先している。
そうした全体主義の表徴としてひとつ(こうした鉄道の表象は漱石の『草枕』にも書いてあります)。
もうひとつは、〈吊る〉という言葉の隠喩性です。
手を通してそこにつかまるわけですし、天井から吊られているから吊革なわけだけれども、だんだんとわたしたちが〈吊られて〉いく状態になっていくのが吊革です。だからそこには潜在的に〈死〉のメタフォリカルな意味作用が生じてくる。
そもそも近代に鉄道が入ってきたときに大きく知覚変化したことの〈死〉の表象です。〈轢死〉というのはそれまでの〈死〉の知覚を変えるようなすさまじいインパクトがあった。そのこともやはり漱石が『三四郎』で描いています。
〈死〉の表徴としての吊革。
そしてさいごに〈ゆらゆら〉感です。
定金さんの句のあるとおり、ゆれているのが吊革です。吊革がゆれるのはそのゆれによってわたしたちが電車に乗っていてもバランスを保てる慣性を調節するのですが、ということは吊革とともにわたしたちも電車に乗りながらたえずゆらゆらしているわけです。
かんがえてみるとこの日常生活のなかで吊られながら長い時間、ゆらゆらしている空間ってないわけですよ。
いままでのことをまとめてみるなら、吊られながら長い時間、全体主義的に、みんなで、死を隠喩的に体現しながら、ゆらゆらしている空間って、おそらく、電車のなかだけなんですよ。
これはひとことでいうと、ぶきみです。
ぶきみだけれども、そういう感性をつくる場所がある意味近代にできた鉄道だった。
だからこの鉄道という空間は、ある意味で、徹底して、知覚の、身体の、ハードウェアの、環境工学の問題かもしれないのです。それが定金さんのいう吊革の「真夜中」というトポス(場所性)なのではないかとおもうのです。
だから、真夜中は、鉄道は、理解するか・しないかが問題にならないのです。ということは、
3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって 中澤系
- 関連記事
スポンサーサイト
- テーマ:読書感想文
- ジャンル:小説・文学
- カテゴリ:こわい川柳-川柳百物語-