【感想】右向きにふとんで泣けば左眼の涙がいちど右眼にはいる 本多響乃
- 2015/08/08
- 18:09
右向きにふとんで泣けば左眼の涙がいちど右眼にはいる 本多響乃
【原文ママ、情景ママ、私ママデナイ】
本多さんの一首です。
うろ覚えではあるんだけれども、斉藤斎藤さんがたしか、いま・ここの状況を《そのまま》描けば歌になる、とおっしゃっていたことがあって、で、本多さんの歌っていうのはまさにそういうことが非常に効果的に詩的にあらわれている歌なのではないかとおもうのです。
で、もちろん、《そのまま》というのは《そのまま》とはじつはちがいます。
なぜなら、定型というメディアが介するからです。
短歌といふ形式は、その情報的な制約から考へてもインターフェース的なテキストとならざるを得ないのに、そこに既成概念にとらはれない世界やら私やらを記述できると考へてしまふことには、何か大きな誤解があるやうに思はれてならない。 荻原裕幸『歌壇』1996・9
荻原さんがこのようにおっしゃっているように、短歌というのいくら《そのまま》描いたとしてもインターフェース=中継ぎ回路にならざるをえないのです。
なぜなら、57577という31音分節に《そのまま》を落とし込むからです。
だからいつも賭けられているのは、《そのまま》を歌うときに《どう》そのままを再構築するかだとおもうんです。
本多さんの歌は、涙のベクトルをたどる歌ですが、この歌ではそのままの泣いている情景をそのまま歌いながら、「右」→「左」→「右」と《そのままにはならなかった》左・右のドラマが再構成されています。
ポイントは、左目から落ちたなみだが右目に《そのまま》入る過程をそのままうたうことで、左の左にもならず、右が右でもいられなかったという《そのままにならなかったドラマ》です。
これは《そのまま》でいようとする、けれども《そのまま》ではいられない語り手の心象もおそらく同時に描いている。つまり、語り手はおふとんで、動揺することなく、《そのままの自分》でいようとしながらも、泣いているのですが、でも泣いている過程をそのままたどるうちにきがついてしまう、あまりにも悲しい出来事だったために、《そのままの自分ではいられなかったこと》を。
つまり、そのままうたうということは、いかにじぶんじしんがそのままうたっていく過程のなかで、《そのままじゃないじぶんじしん》にきがついていくプロセスなのではないかとおもうのです。
ともだちのふうふとあそぶともだちのふうふはおなじおうちへかへる 本多響乃
【原文ママ、情景ママ、私ママデナイ】
本多さんの一首です。
うろ覚えではあるんだけれども、斉藤斎藤さんがたしか、いま・ここの状況を《そのまま》描けば歌になる、とおっしゃっていたことがあって、で、本多さんの歌っていうのはまさにそういうことが非常に効果的に詩的にあらわれている歌なのではないかとおもうのです。
で、もちろん、《そのまま》というのは《そのまま》とはじつはちがいます。
なぜなら、定型というメディアが介するからです。
短歌といふ形式は、その情報的な制約から考へてもインターフェース的なテキストとならざるを得ないのに、そこに既成概念にとらはれない世界やら私やらを記述できると考へてしまふことには、何か大きな誤解があるやうに思はれてならない。 荻原裕幸『歌壇』1996・9
荻原さんがこのようにおっしゃっているように、短歌というのいくら《そのまま》描いたとしてもインターフェース=中継ぎ回路にならざるをえないのです。
なぜなら、57577という31音分節に《そのまま》を落とし込むからです。
だからいつも賭けられているのは、《そのまま》を歌うときに《どう》そのままを再構築するかだとおもうんです。
本多さんの歌は、涙のベクトルをたどる歌ですが、この歌ではそのままの泣いている情景をそのまま歌いながら、「右」→「左」→「右」と《そのままにはならなかった》左・右のドラマが再構成されています。
ポイントは、左目から落ちたなみだが右目に《そのまま》入る過程をそのままうたうことで、左の左にもならず、右が右でもいられなかったという《そのままにならなかったドラマ》です。
これは《そのまま》でいようとする、けれども《そのまま》ではいられない語り手の心象もおそらく同時に描いている。つまり、語り手はおふとんで、動揺することなく、《そのままの自分》でいようとしながらも、泣いているのですが、でも泣いている過程をそのままたどるうちにきがついてしまう、あまりにも悲しい出来事だったために、《そのままの自分ではいられなかったこと》を。
つまり、そのままうたうということは、いかにじぶんじしんがそのままうたっていく過程のなかで、《そのままじゃないじぶんじしん》にきがついていくプロセスなのではないかとおもうのです。
ともだちのふうふとあそぶともだちのふうふはおなじおうちへかへる 本多響乃
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