【川柳】垂直に…「おかじょうき 0番線 題「垂」・八上桐子 選・佳作」
- 2015/08/16
- 01:00
垂直に慟哭ひびくムーミン谷 柳本々々
(「おかじょうき 0番線 題「垂」・八上桐子 選・佳作」)
【ムーミン谷のまっくら森で】
ときどきムーミン谷ってなんなんだろう、と考えているんですが、基本的には〈谷〉なんですよね。
〈谷〉っていうと宮崎駿の『風の谷のナウシカ』の〈谷〉みたいに外部とは切り離されたひとつのコミュニティを形成している。
だから、スナフキンはその自閉したコミュニティに充足を覚えないように〈外〉を志向するし、ニョロニョロたちも船にのってあてのない旅へでていく。
このコミュニティで充足感を覚えているひとが、蒐集家のヘムレンで、かれは植物の〈蒐集〉という内宇宙をとおして、この〈谷〉という閉息的なコミュニティーに自足している。
けれども、そのように自足していても〈外部〉はやってくるわけです。たとえば彗星として。風の谷にトルメキア軍の軍事飛行船が乗り込んできたように、ムーミン谷も彗星によって壊滅の危機をむかえる。
となると、ムーミン谷とは、つねにいかに〈外〉を抑圧し、〈外〉を掩蔽し、〈外〉を抑圧するかが物語の主題ともいえるんじゃないかとおもうんです。
けれども抑圧しても抑圧しても〈外〉がやってくる。まるごと死をかかえたようなモランもやってくる。火星人も海賊も虎も、やってくる。
そういう〈外〉との緊張感がある。
そしてそういう〈外〉というかたちで〈暗さ〉をかかえこんでいるんだともおもうんです。
たとえばムーミンママは「くたびれたり、はらがたったり、がっかりしたり、ひとりになりたいときには、あてもなく、はてしなくうす暗い森の中を歩きまわって、しょんぼりした気持ちをかみしめてい」る。
なぜ、それがムーミンハウスという〈家〉で行われないのか。
そういう〈外側〉にある〈内面〉をムーミン谷の住民のめいめいがひきうけなければならない。〈谷〉とはそういうものではないかとおもったのです。たとえわたしが谷のまんなかで声をあげて泣いたとしても。
つま先が冷えてムンクの夜になる 八上桐子
これは新しい世界でした。ホムサには、ことばで説明することも、絵にかくこともできませんでした。なにひとつ、絵やことばにしてやる必要もないのです。ここには、いままで、道を作ろうとした人もいないし、木かげで休もうとした人もいないのです。ただ、みんな、なんとなく暗い思いをだいて、この中を歩きまわるだけなのです。これはいかりの森でした。彼は、すっかり気持ちがおちついて、とてもいきいきとしてきました。ホムサ・トフトは、森の中を、奥へ奥へとはいっていきました。そうだ、ムーミンママは、くたびれたり、はらがたったり、がっかりしたり、ひとりになりたいときには、あてもなく、はてしなくうす暗いこの森の中を歩きまわって、しょんぼりした気持ちをかみしめていたんだ……ホムサ・トフトには、まるっきり、いままでとちがったママが見えました。
ヤンソン『ムーミン谷の十一月』
(「おかじょうき 0番線 題「垂」・八上桐子 選・佳作」)
【ムーミン谷のまっくら森で】
ときどきムーミン谷ってなんなんだろう、と考えているんですが、基本的には〈谷〉なんですよね。
〈谷〉っていうと宮崎駿の『風の谷のナウシカ』の〈谷〉みたいに外部とは切り離されたひとつのコミュニティを形成している。
だから、スナフキンはその自閉したコミュニティに充足を覚えないように〈外〉を志向するし、ニョロニョロたちも船にのってあてのない旅へでていく。
このコミュニティで充足感を覚えているひとが、蒐集家のヘムレンで、かれは植物の〈蒐集〉という内宇宙をとおして、この〈谷〉という閉息的なコミュニティーに自足している。
けれども、そのように自足していても〈外部〉はやってくるわけです。たとえば彗星として。風の谷にトルメキア軍の軍事飛行船が乗り込んできたように、ムーミン谷も彗星によって壊滅の危機をむかえる。
となると、ムーミン谷とは、つねにいかに〈外〉を抑圧し、〈外〉を掩蔽し、〈外〉を抑圧するかが物語の主題ともいえるんじゃないかとおもうんです。
けれども抑圧しても抑圧しても〈外〉がやってくる。まるごと死をかかえたようなモランもやってくる。火星人も海賊も虎も、やってくる。
そういう〈外〉との緊張感がある。
そしてそういう〈外〉というかたちで〈暗さ〉をかかえこんでいるんだともおもうんです。
たとえばムーミンママは「くたびれたり、はらがたったり、がっかりしたり、ひとりになりたいときには、あてもなく、はてしなくうす暗い森の中を歩きまわって、しょんぼりした気持ちをかみしめてい」る。
なぜ、それがムーミンハウスという〈家〉で行われないのか。
そういう〈外側〉にある〈内面〉をムーミン谷の住民のめいめいがひきうけなければならない。〈谷〉とはそういうものではないかとおもったのです。たとえわたしが谷のまんなかで声をあげて泣いたとしても。
つま先が冷えてムンクの夜になる 八上桐子
これは新しい世界でした。ホムサには、ことばで説明することも、絵にかくこともできませんでした。なにひとつ、絵やことばにしてやる必要もないのです。ここには、いままで、道を作ろうとした人もいないし、木かげで休もうとした人もいないのです。ただ、みんな、なんとなく暗い思いをだいて、この中を歩きまわるだけなのです。これはいかりの森でした。彼は、すっかり気持ちがおちついて、とてもいきいきとしてきました。ホムサ・トフトは、森の中を、奥へ奥へとはいっていきました。そうだ、ムーミンママは、くたびれたり、はらがたったり、がっかりしたり、ひとりになりたいときには、あてもなく、はてしなくうす暗いこの森の中を歩きまわって、しょんぼりした気持ちをかみしめていたんだ……ホムサ・トフトには、まるっきり、いままでとちがったママが見えました。
ヤンソン『ムーミン谷の十一月』
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